地学・トピック8 阿武隈高地に月面を想定してみる

[初期掲載 2010年 1月]
目次
1 北上高地の特異地形
2 四万十川付近の曲隆と水系型
3 月のクレーターと地球のクレーター
4 水系型の一般論
5 地球のクレーターと水系型
6 阿武隈高地に月面を想定してみる




1 北上高地の特異地形 (注1)
 トピック1「早池峰山」で、火山のないはずの北上山地にあたかも火山のような地形があり、最も明瞭と思われるのが、岩手県の早池峰山南部から遠野市北部にかけての地域だということを述べ、この地域の等高線図を掲示しました。

 また、地学・トピック5 「岩手県 岩洞湖(がんどうこ)付近の特異な地形」でも、この付近に特異地形を認め次のような検討をしてみました。

 岩洞湖付近の地形(同心楕円状の高まり・窪み)の解釈

 このような地形を形成する過程
  1. 火山のカルデラ
  2. クレーター(隕石衝突孔)
  3. 風化 (山地が、真上からみて「玉葱状に」風化した地形)
の3つの可能性


 ここでは、北上高地に見方によっては、クレーター(隕石衝突孔)にも見える特異地形があるということを強調しておきます。



注1) 「山地」と「高地」

 私は、つい最近まで、ほとんど何も考えずに「北上山地」、「阿武隈山地」と使ってきましたが、1/20万地勢図やその他や一般の地図では、「北上高地」、「阿武隈高地」になっているので、これからは、これらの地域名については「高地」表記にしていきます。

 なお、理科年表に日本の地形区分が載っていますが、これでは、北上山地(高地)、阿武隈山地(高地)という表記になっていましたので、「〜山地」表記が誤りとか、そういう問題ではないようです。


2 四万十川付近の曲隆と水系型
 大塚(1942)は、四国の四万十川では、曲隆運動があり、その結果、四万十川中流で、各支流の地形に差異が生じ、本流の谷は、先行性の深い谷になったと述べています。曲隆運動では、河川の平面的なパターンには大きな変化はなく、下方侵食のみが激しく行われると考えたものです。これは大変古い文献ですが、このころから水系の平面的なパターン、つまり、「水系型」に注意が払われていたことがわかります(図1)。



図1 四万十川の曲隆による河川地形の変化

( 大塚(1942)より )


大塚(1942)の本文を、旧かなづかいと漢字は現在のものになおして、そのまま以下に掲示します。(注2)

 四国の南西には四万十川と呼ぶ掌状に支流を広げた河流があり、いずれも複雑な蛇行流路を示している。これらの支流は東から松原川・檮原(ゆすはら)川・吉野川に分かたれている。
 松原川は最も東の支流で鶴松の森(かくしょうのもり)にその源を発し、窪川の盆地に広い沖積原の中を南北に流れて、再び東西の流路を経て山地に入り檮原川と合し、美しい嵌入(かんにゅう)蛇行の流路をとっている。
 檮原川は中央部を南北に流れる河流で、上流から松原川に合するまで殆ど緩流部がない程に侵食作用を進めている。
 吉野川は最も西の支流で松原川とは対称的な特長を示し、伊予境の山地から発したこの河は一度広い沖積原の中を流れて再び峡谷底を流れて松原川と合している。
 嵌入蛇行流路は過去の自由蛇行流路がその後、下方侵食のみ作用して地表に深く嵌め込まれて(はめこまれて)保存されたものと解釈せねばならぬから、この地方には過去に第32A図のような地表があって、それが南北を軸として曲隆したために今日のような特長のある地形第32B図が生じたと解釈できる訳である。
 このような解釈に従うと元来平坦あるいは緩起伏の山地が曲隆したと言うのであるから、今日の山の高度分布は河網が掌状に分布しているから中央部が盆地状に低かった筈であるのが却って中心部が高くて差支えない。....
注2) 引用文の表記や言葉づかいなど

 ()内の読みなどは、原文にはありません。ここでの加筆事項です。
 漢字「様」はひらがなの「よう」に、「或いは」は「あるいは」に変えました。

 地名にも表記などの変化が少しあるようです。
鶴松の森(かくしょうのもり)は、1/20万地勢図では、鶴松森(かくしょうもり)になっていました。また、1/20万地勢図では「松原川」という表記は全くなく、大塚のいう「松原川」は、上流まで、あくまで「四万十川」本流の扱いになっています。

 伊予境は、今の表現では「愛媛県との県境」ぐらいでしょう。

 地形に関する言い方も今風に直すとだいたい次のようでしょう。





3 月のクレーターと地球のクレーター
 「かぐや」に興味をもってから、改めて、月のクレーターと地球のクレーターについてあれこれ考えるようになりました。ずっと昔からこの方面のことを熱心に探求してきた方からみれば、今頃になって何をいっているのだといわれてしまいそうな事柄を最近になってはっきり認識するようになりました。

 一つは月のクレーターの中に「中央丘」があるものが少なからずあるということです。恥ずかしながら、ついこの間まで月のクレーターは、中央が溶岩で満たされた平なものが主で、中央がへこんだ形のものの方が少ないようなイメージをもっていました。

 「かぐや」のデータをみると、中央がへこんだ形のものや、中央丘のあるもののほうが、中央が平坦なものより、はるかに沢山あります。大規模なものでは多重の構造をもったものもあります。

 もう一つ、最近、はっきりと認識するようになったことは、地球と月の大きさ・質量からして、本来地球のほうに月よりはるかに多いクレーターが存在していたはずであるということです。

 もし、月と地球の中間点あたりにあまり速くない飛行体としての大隕石群 (ないし、微小惑星群) が飛来したら、その大部分は地球に落ち、月に落ちるものはごく僅かなはずです。だから、この場合、地球に落ちたものも、月に落ちたのもクレーターを形成するとすると、できるクレーター数は、地球のものの方が、月のものより、はるかに多くなる理屈です。

地球のクレーターが、実際には認識されている数は、月のクレーターとは比較にならないほどの圧倒的少数であることについて、通常の説明は、次のようなことです。

  1. 地球表面で、海陸の面積比はおよそ 7:3 で海が広いが、海底の大部分は約1億年前以降の地質学的に新しいところで、それ以前のクレーターは、仮に存在していたとしても、すでに消え去っている
  2. 地球には、水や空気があり、これらによる風化侵食作用によって、過去のクレーターは、容易に消滅してしまう

 少し古い資料ですが、金子(1993)は、(1992年までに)「確認ずみのインパクト・クレーター(衝突孔)は約120カ所あまりである」と述べ、また、年代の明らかになったクレーターのうち、「直径十キロ以上のものに限ると、既知のクレーターの五十パーセントは、この2億年内に生じたものだ」とも述べています。

 (海洋のクレーターは1つのみを認めています。)

 前述の2から、当たり前ですが、地球のクレーターは出来た直後は月のクレーターと同様な形状をしていても、風化・侵食作用によって、月のクレーターとは、かなり、かけ離れた形状に変化するということを意識していないと、もともと困難な地球表面でのクレーター発見は、一層困難になります。

 前掲の金子(1993)の中で、地質学的に厳密に衝突孔であることを証明するには、特徴的な衝突岩や衝突鉱物などの証拠がなければならない旨述べられています。「科学」としては、全く正しく反論はできませんが、「科学」を豊かにする「空想科学」では、観察・観測される事実や、これらから推定される事柄と矛盾が生じないなら、単に環状の尾根があるとか、環状の尾根か推定されるといった薄弱な根拠で、これがクレーターである可能性を吹聴することが許容されるでしょう。

 この「地学のページ」では、厳密な「科学」ではなく、エンターターメント的に「空想科学」をやっていこうと思っています。以下は、「空想科学」の話です。





4 水系型の一般論
 図2は、地形学の教科書にのっている水系型の1例です。学者によって、着目する形状や型の名前のつけ方に若干の相違はあるようですが、これは、アメリカの乾燥地形に関心が深いと思われる学者の説明図です。



図2 水系型の分類例(A.L.ブルーム 1970より)


「樹枝状型」は、岩石の一様性を示し、「格子型」は、密に褶曲した堆積岩地帯に典型的にみられる旨述べられています。「たんざく型」は、交差する節理により、「放射型」は円錐火山などでみられるとしています。

 古くから、水系型とその地域の地質との関連性に注目していたわけです。水系型は現時点での私の考えでは、大きく4つの型に分けて考えれば良いのではないかと思います。

表1 水系型の大分類(私案)
  1. 樹枝状型 ----- 地質・岩石の侵食に対する一様性を示す
  2. 矩形型(「格子型など」) ------ 褶曲や、断裂系(断層・節理)を示すことと、斜面の傾動を示すことがある
  3. 円形型(「放射型」・「環状型」・「集中型」(後述)) -------- 火山か隕石衝突孔を示す
  4. その他(「楕円型」その他) --------- 特に特長的なパターンを示さない、上3パターンがその後の地殻変動で変形したものなど




5 地球のクレーターと水系型
 地球の陸上にも実はクレーターがたくさんあって、そのほとんどは、河川によって侵食されているとすると、地球のクレーターによる水系型というものを推定できるはずです。

 クレーター地形の特長はなんといっても環状の尾根と、そこから下がる内壁といって良いような内側の崖と、 中央の平坦地です。中央の平坦地は、後からの溶岩流がクレーター内を満たして完全に平坦になっているものもあれば、「中央丘」の小さな高まりなどで、崖直下より中央が少し高くなっているものもあります。衝突孔の底で爆発が起きたものであれば、中央が最も低くなっているはずです。

 地球のクレーターは、環状尾根の一部が外部の河川によって侵食突破されて、そこを主な「排水路」として、水系が形成されると予想されます。 中央が若干高くなっているタイプのものは、崖直下に水路を形成しやすいといえます。

 一旦、できたクレーターの付近がわずかに傾動すれば、中央が平なタイプでは、傾動方向に平行な谷が形成されるでしょう。

 これらの推定から、地球のクレーターの主な水系型は表2・図3のようになると考えて良いでしょう。

表2 地球のクレーターの主な水系型




図3 想像−クレーターに水系が発達したら





 


6 阿武隈高地に月面を想定してみる

6−1 阿武隈高地の水系図
 ちょうど1年と少し前の頃(2008年年末)、遠野付近の特異地形が大いに気になっていたとき、おぼろげながら、水系型で特異地形を抽出するアイデアも浮かんでいたので、千葉へ買い物にいったときに北上高地の1/20万地勢図をさがしてみましたが、あいにく、「福島」図幅までしかありませんでした。北上高地も阿武隈高地も大きくは、地形・地質的に類似なので、なら、阿武隈高地を先に見てみることにしました。(我ながら優柔不断だと思いますが。)

 昨年(2009年)、夏ごろ、暇にまかせて、阿武隈高地の水系図をつくってみました。単に水系のパターンの図ではなく、この地域では、主な断層と、新生界と中・古生界の区分が重要だろうと考えて、それらが明瞭にわかるようにつくりました(図4)。


図4 阿武隈高地の水系図


 


6−2 水系型からの特異地形(クレーター?)の抽出
 図4を画像処理ソフトで「色の反転」(=補色をとる)の操作をして、これについて、表2の地球のクレーターの 水系型の考え方を適用して、特異地形を描きだしたものが図5です。図の右側に各クレーター候補地の記号と適宜与えた名称を書き出しておきました。(図の中には記号のみ表記されています。)


図5 阿武隈高地の水系模様から抽出した特異地形(クレーター?)図

 図5と、もとの1/20万地勢図の地形観察、水系図(図4)をもとに、各特異地形をクレーター候補地として、表にまとめてみました(表3)。
 

表3 阿武隈高地の特異地形=クレーター候補地表

 この中の、クレーター型は表2の水系型に対応するもので、表4のように決めたものです。

表4 クレーター型の分類

 表3で、疑問符をつけた地形の特長などは、おもに侵食が進んでいるために不明瞭になってはいるけれど、そうである可能性も高いことを示しています。水系は比較的良く残っていますが、環状尾根などの、尾根線は保存が良くありません。

 阿武隈高地北端部では、酸性深成岩体の上に新第三紀以降の火山岩が重なっているところが多く、火山による水系型が保存されている可能性が高いと思われます。しかし、阿武隈高地の大部分では、火山岩など、火山を示唆するものはありません。また、水系型の内、環状型は、複式火山の水系として形成される可能性は多分にありますが、集中型や、中央平坦面傾斜型は、火山では、形成され難いと思われます。このような理由で、これは、隕石衝突孔の跡の可能性が高いと考えます。



 
6−3 阿武隈高地に月面を想定してみる
 以上の主に水系型による推論が正しいものとして、さらに、もとのクレーターの形を推測して、この付近の原地形であるクレーター群の分布図を作ってみました(図6)。図5を再び色反転し、水系を消し、クレーターをよりリアルな表現に変えました。

 なお、表3では、水系型からの推定で、中高型(中央が少し高くなっているクレータータイプ)と、平坦型(傾動を伴う、中央が平なクレータータイプ)を区別しましたが、この図では、両者とも、概ね平坦型的に描きました。中低型(中央が最も低くなっているクレータータイプ)は、明確に区別してあります。

 原地形でも、地球上なので、それなりの水系は発達していたはずですが、この図では、水系はすべて消してあります。全く月面のような図になっています。

 阿武隈高地の中・古生界の主体は前期白亜紀の酸性(=珪長質)深成岩体なので、「クレーター」の形成時期は、前期白亜紀より後ということになります。


図6 阿武隈高地のクレーター復元図





引用文献

1 大塚 彌之助(おおつか やのすけ) 著 1942 日本の地質構造
                         同文書院 pp. 107-108

2 A.L.ブルーム 著   榧根 勇(かやね いさむ)訳  1970 地形学入門
            地球科学入門シリーズ1  共立出版 p.123

参考文献

1 国土地理院 1/20万地勢図 「福島」、「白河」
 「福島」は、平成17年発行(平成元年編集、平成16年修正版)
 「白河」は、平成19年発行(昭和63年編集、平成18年修正版)
  
2 金子 史郎(かねこ しろう) 著 1993 人類の絶滅する日
                原書房 pp.78-81, pp.99-105

3 木内 信蔵、山口 恵一郎 監修  昭文社 発行 「日本分県地図」 1978
      pp.26-27 福島県、 pp.28-29 茨城県、pp.90-91 高知県

4 昭文社 発行 「コンパクト日本地図帳」 2008
      pp.20-21 福島県、 pp.24-25 茨城県、 pp94-95 高知県

5 ニュートン プレス 発行 「Newtonムック 38万キロ彼方のフロンティア 月世界への旅」 2009
   の特別付録の月面詳細地形図ポスター
  (月面詳細地形図ポスターは、データ解析:国立天文台、地形図作成:国土地理院)


参考ホームページ

1 産業総合技術研究所ホームページ
    シーレス地質図の阿武隈高地付近

   (但し、参考にしたのは、最新版ではなく、2005年10月ころ掲載されていた地質図)