地学・トピック7 大洋上で観測される地磁気異常の縞模様の解釈
[初期掲載 2009年 11月]
大洋上で観測される地磁気異常の縞模様の解釈
少し長いので、最初に各節の項目を列挙した目次をかかげ、それから、本文に移ります。
目次
1 方位磁石と棒磁石の実験
1−1 実験1
1−1−1 実験の準備
1−1−2 実験1 棒磁石のN極を方位磁石に近づける実験
1−2 実験2 棒磁石のS極を方位磁石に近づける実験
1−3 実験3 2本の向きが逆の棒磁石を方位磁石に近づける実験
1−4 実験4 向きが逆の対の棒磁石群に、特定の向きの棒磁石をのせたものを、方位磁石に近づける実験
2 地層累重の法則
2−1 地層累重の法則
2−2 法則が成立する岩体
2−3 法則が成立しない岩体
(岩脈と岩床とシルについて)
3 大洋底の玄武岩質岩などの産状と帯磁状況の推定
3−1 大洋底の表面付近の産状の推定(大洋底の溶岩流の平坦性の推定)
3−2 大洋底の内部の産状と帯磁状況の推定
3−2−1 大洋底の内部の産状と帯磁状況の推定の方法
3−2−2 プレートテクトニクス(海洋底拡大説)の立場の推定(1)−−上田 誠也らの推定
3−2−3 地球膨張説の立場の推定−−星野 通平 の推定
3−2−4 プレートテクトニクス(海洋底拡大説)の立場の推定(2) 瀬野 徹三らの推定
3−2−5 大洋底内部の玄武岩質岩の産状と帯磁状況の推定
4 大洋底の火山岩の「層厚−形成時間」関係
5 古地磁気層序の概略
6 大洋底の地磁気異常層の厚み
6−1 大洋底の地磁気異常層の厚み(その1 第四紀火山の噴出量からの推定)
6−2 大洋底の地磁気異常層の厚み(その2 日本海海底ボーリングデータからの推定)
7 大洋上で観測される地磁気異常の縞模様の解釈(その1 磁石モデル)
8 陸上で観測される地磁気異常の(縞)模様と地質との関係
8−1 日本列島付近の地磁気異常の概要
8−2 北海道の陸上で観測される地磁気異常の縞模様と地質との関係
8−2−1 北海道の地磁気異常と地質との関係の概略検討
8−2−2 北海道の地磁気異常と地質との関係の詳細検討
8−3 九州のの陸上で観測される地磁気異常の縞模様と地質との関係
8−3−1 九州の地磁気異常と地質との関係の概略検討
8−3−2 九州の地磁気異常と地質との関係の詳細検討
8−4 陸上で観測される地磁気異常の縞模様と地質との関係のまとめ
9 大洋上で観測される地磁気異常の縞模様の解釈(その2 地質モデル)
10 まとめ
引用文献
参考文献
本文
1 方位磁石と棒磁石の実験
最初に、簡単な方位磁石と棒磁石の実験を行って、磁石の性質のおさらいをしておきます。
1−1 実験1
1−1−1 実験の準備
方位磁石と、およその強さ・大きさが同じ棒磁石を8本ほど用意しておきます。また、適当な大きさの(A3より少し大きいぐらいの)白紙を用意しておきます。記録用にカメラも用意しておきます。
何もないところに水平に方位磁石を静置しておけば、磁石は磁北を指します。白紙をを方位磁石の下に敷く台紙とします。白紙の中央に十字を切り、十字の線上に等間隔に目盛りを打ち、短い方の十字線と、磁北の方向が合うような向きに、台紙を方位磁石の下にセットします。これで、準備は終わりです。
1−1−2 実験1 棒磁石のN極を方位磁石に近づける実験
準備が終わったときの状態を写真1−1−a に示します。これが実験開始時の状態です。

写真1−1−a 実験1 N極の接近による方位磁石の変化 (a)
左:全体, 右:方位磁石・棒磁石の状態
1本の棒磁石のN極が、方位磁石側になるように、適当に離れた位置に線上に先端を目盛りに合わせて置き、方位磁石の揺れがおさまったら、カメラで、記録をとります。この状態が写真1−1−b です。

写真1−1−b 実験1 N極の接近による方位磁石の変化 (b)
以下、棒磁石の向きをそのまま、位置を1目盛りづつ、方位磁石に近づけて行き、各々の場所で、方位磁石の指針の揺れがおさまるのを確認してから、カメラで記録をとっていきます(写真1−1−c 〜 写真1−1−h)。

写真1−1−c 実験1 N極の接近による方位磁石の変化 (c)

写真1−1−d 実験1 N極の接近による方位磁石の変化 (d)

写真1−1−e 実験1 N極の接近による方位磁石の変化 (e)

写真1−1−f 実験1 N極の接近による方位磁石の変化 (f)

写真1−1−g 実験1 N極の接近による方位磁石の変化 (g)

写真1−1−h 実験1 N極の接近による方位磁石の変化 (h)
この実験で、方位磁石の指針は、地磁気と棒磁石の磁気の両方に影響されてそれぞれの状況に応じた向きを指し示していることがわかります。この実験での方位磁石は、一種の観測装置とみなせます。そして、観測装置で観測される磁力の強さは、磁石の位置と観測装置の間の距離に大きく影響されることがわかります。観測装置で観測される磁力は、磁石と観測装置の間の距離が近いほど、大きくなり、遠くなれば、なるほど、小さくなります。
1−2 実験2 棒磁石のS極を方位磁石に近づける実験
実験1は、方位磁石側に、棒磁石のN極を持ってきましたが、磁石と観測装置の間の距離の関係は、方位磁石側に棒磁石のS極を持ってきても全く同様です。これを実験で確かめ、これを実験2とします。
写真1−2−a が実験2の開始時の状態です。

写真1−2−a 実験2 S極の接近による方位磁石の変化 (a)
左:全体, 右:方位磁石・棒磁石の状態

写真1−2−b 実験2 S極の接近による方位磁石の変化 (b)

写真1−2−c 実験2 S極の接近による方位磁石の変化 (c)

写真1−2−d 実験2 S極の接近による方位磁石の変化 (d)

写真1−2−e 実験2 S極の接近による方位磁石の変化 (e)

写真1−2−f 実験2 S極の接近による方位磁石の変化 (f)

写真1−2−g 実験2 S極の接近による方位磁石の変化 (g)

写真1−2−h 実験2 S極の接近による方位磁石の変化 (h)
1−3 実験3 2本の向きが逆の棒磁石を方位磁石に近づける実験
さて、今度は、2本の棒磁石の向きを逆にしてつけて対にしたものを、方位磁石に近づけたらどうなるか実験してみます。2本の棒磁石の磁力が全く同じなら、互いの磁力を打ち消しあって、磁力がゼロになり、方位磁石は対の棒磁石が近づいても、磁北を指したまま、変化しないと予測されます。
実際に、やってみた結果を写真で示します。
写真1−3−a が実験3の開始時の状態です。

写真1−3−a 実験3 向きが逆の対の棒磁石の接近による方位磁石の変化 (a)
左:全体, 右:方位磁石・棒磁石の状態

写真1−3−b 実験3 向きが逆の対の棒磁石の接近による方位磁石の変化 (b)

写真1−3−c 実験3 向きが逆の対の棒磁石の接近による方位磁石の変化 (c)

写真1−3−d 実験3 向きが逆の対の棒磁石の接近による方位磁石の変化 (d)

写真1−3−e 実験3 向きが逆の対の棒磁石の接近による方位磁石の変化 (e)

写真1−3−f 実験3 向きが逆の対の棒磁石の接近による方位磁石の変化 (f)

写真1−3−g 実験3 向きが逆の対の棒磁石の接近による方位磁石の変化 (g)
結果は、棒磁石の強さが完全にはそろっていないので、棒磁石の対を近づけたときに、少し方位磁石の指針に向きの変化が生じました。しかし、指針の動き方は、実験1、実験2のときとは、ずっと小さいものであることは明瞭です。近接する向きが逆の(棒)磁石は、互いに磁力を打ち消し合うことは、これらの実験で、はっきり示されています。
1−4 実験4 向きが逆の対の棒磁石群に、特定の向きの棒磁石をのせたものを、方位磁石に近づける実験
近接する向きが逆の棒磁石の数がふえても、棒磁石が偶数個で、ちょうど、半分づつ向きを逆にすれば、全体としての磁力は、かなりゼロに近いものでしょう。最後に、棒磁石の対の集まりに、特定の向きの棒磁石をのせたものを、方位磁石に近づける実験をしてみます。方位磁石は、当然、後からのせた特定の向きの棒磁石の影響を大きく受けるはずです。
実際に行ってみたものを実験4として、写真で示します。

写真1−4−a 実験4 対の棒磁石群に、特定の向きの棒磁石をのせたものよる方位磁石の変化 (a)
(対の磁石群のみを少し遠いところに置いた)
左:全体, 右:方位磁石・棒磁石の状態

写真1−4−b 実験4 対の棒磁石群に、特定の向きの棒磁石をのせたものによる方位磁石の変化 (b)
(その上に特定の向きの棒磁石をのせた)

写真1−4−c 実験4 対の棒磁石群に、特定の向きの棒磁石をのせたものによる方位磁石の変化 (c)
(対の磁石群のみを近いところに置いた)

写真1−4−d 実験4 対の棒磁石群に、特定の向きの棒磁石をのせたものによる方位磁石の変化 (d)
(その上に特定の向きの棒磁石をのせた)
この実験で、磁石がたくさんあるとき、その中の向きがそろった強い磁石による磁力が、磁場の中で支配的になることが感覚的にわかります。
2 地層累重の法則
2−1 地層累重の法則
地層は、古い地層から、より新しい地層が、順次、下から上に積み重なっていくものであることが、いわば、公理、法則として認められており、このことを「地層累重の法則が成立する」といいます。堆積が連続的か、時間間隙を伴う不連続的なものであるか、ということは関係なく、この法則は、多くの岩体について成立します。
以下では、「岩体」の観点で、その岩体の中で、より下位のものがより古いものであるということが成立しているか否かで、この法則が成立する岩体と成立しない岩体を区別する試みをしてみます。
岩石は通常、堆積岩、火成岩、変成岩に分類します。岩の集まりを「岩体」とすると、実際にはある共通項をもった1つの岩体に、これら3種類の岩が混在している場合も、もちろんありますが、ここでは、そういう難しいことは考えずに、岩体を「堆積岩体」、「火成岩体」、「変成岩体」と3大区分し、さらに、このうちの「火成岩体」を「火山岩体」と「深成岩体」に区分して、「堆積岩体」と「火山岩体」と「深成岩体」についてのみ「地層累重の法則」が成立するか考察してみます。なお、「変成岩体」については、話が複雑になるので、ここでは何も考えません。
2−2 法則が成立する岩体
「堆積岩体」については、ほとんどの場合「地層累重の法則」が成立しているとみなして良いでしょう。「堆積岩体」でこの法則が成立していないのは、非常に特殊な堆積環境下での堆積物です。なお、 「堆積岩体」が堆積後の地殻変動で動かされている場合も多いので、「地層累重の法則」の上下は層位の上下であって、地球の重力に対しての上下ではないことには注意してください。
「深成岩体」は、岩体内部が層状の場合と塊状の場合と区別する必要があります。塊状の場合は、「地層」を広義にとらえても、そもそも「地層」にもなっていませんし、岩体内部の新旧は上下関係とは無関係のはずで、成立しません。岩体内部が層状なら、「地層」を広義にとらえれば、「地層」といってかまわないと思います。「層状深成岩体」のうち、特別な場合、固結が下位から上位に向かって順序正しく行われた場合は、「地層累重の法則」の適応範囲を広義で考えて、この法則が成立しているといって良いでしょう。「層状深成岩体」でこの法則が成立しているか否かは、観察だけでは判定不能で、密で詳細な年代測定しか確認の方法はないと思われます。
「火山岩体」についても、産状を考慮する必要があります。火山の溶岩流や火砕流は堆積岩と同じような堆積をするので、これらでは、法則が成立しています。しかし、地中の割れ目や空隙などに入り込む岩脈や岩床では成立していません。
まとめると、地層累重の法則が成立するのは、
- 堆積岩体
- 火山岩体で、溶岩流・火砕流の産状を示すもの
- 層状深成岩体のなかの特別な、固結が下位から上位に向かって順序正しく行われたもの
です。
2−3 法則が成立しない岩体
上の記述より、地層累重の法則が成立しないのは、
- 火山岩体で、岩脈・岩床の産状を示すもの
- 塊状深成岩体
- 一般の層状深成岩体
です。
岩脈と岩床とシルについて
地質学の正確な用語法といったことについては、不勉強なので、以下の説明が本当のところ正確なのか不安なところもありますが、いちおう、ここでは、火山岩の産状で、鉛直か鉛直に近い角度で板状に貫入しているものを「岩脈」といい、それ以外の角度で板状に貫入しているものを「岩床」といい、「岩床」の中で特に、水平に近い地層の中に地層に全く平行に板状に貫入している特別なものを「シル」ということにしておきます。
3 大洋底の玄武岩質岩などの産状と帯磁状況の推定
3−1 大洋底の表面付近の産状の推定(大洋底の溶岩流の平坦性の推定)
一般に地層はほぼ水平に堆積します。特に、大洋の平坦な海底に堆積する堆積層については、このことは問題なく成立すると考えられます。
陸上の火山の、火山中心から流れだして、裾野で固結する溶岩流の水平性はどうなのか考えてみましょう。大洋底の堆積物ほどの水平性はないものの、かなり平坦になるでしょう。富士山の裾野の青木ヶ原樹海は、富士山が平安時代に噴火したときの溶岩流に、その後、木々が生い茂って形成された樹海といわれています。この青木ヶ原樹海の地形をみれば、火山の裾野は相当に平坦であることが理解できるでしょう。
さて、大洋底の海底火山の裾野の平坦性はどうなのでしょうか。大洋底は、流動性の高い玄武岩質溶岩から成っており、海底火山の溶岩は、流動性が高いと考えられます。また、「一般に、大洋体は相当に平坦である」ことと考え合わせれば、この上を流れて固まる海底火山の裾野溶岩流は、陸上火山の裾野より、ずっと平坦性の高い溶岩流地形になるみなして良いと考えます。
3−2 大洋底の内部の産状と帯磁状況の推定
3−2−1 大洋底の内部の産状の推定の方法
大洋底内部については、誰も直接観察できていないので、いろいろな方法で知られている事実から、推測するしかありません。推測は、結局のところ「海洋地殻」がどういうものであるかという考え方に大きく依存することになります。以下では、今日主流であるプレートテクトニクス(正確には、その中の海洋底拡大説)に基づく推定を2つと、非主流の圧倒的小数派意見である地球膨張説に基づく推定を紹介した後、これらをふまえた私の意見を提示します。
3−2−2 プレートテクトニクス(海洋底拡大説)の立場の推定(1)−−上田 誠也らの推定
上田(1971)は、
[船または飛行機による]
海上で観測される地磁気異常の縞模様について、中央海嶺で形成される海洋プレートが、形成時の地磁気の方向に従って磁化され、それが、中央海嶺から対称に広がっていく「テープレコーダーモデル」で説明しています(図3−2−1)。

図3−2−1 テープレコーダーモデルとトランスフォーム断層の説明図(上田(1971) [引用文献 1] より)
上田は「テープレコーダー」のテープの磁化部分の厚みについては、明確には何も言っていません。しかし、ある程度以上の厚みがなければ、海上での観測値に影響を与えることはないはずなので、
(私の推測では、厚みは、おそらく海洋地殻の厚みとして、)
図3−2−2のような地磁気異常の縞模様が、鉛直方向に同時に形成され、水平方向に変化していく、「鉛直同時帯磁モデル」を正しいとしたことになります。、「鉛直同時帯磁モデル」は、簡単に「鉛直帯磁モデル」とも呼ぶことにします。

図3−2−2 海洋底地殻の鉛直帯磁モデル
なお、上田(1971)は、帯磁する海洋地殻の岩石としての実態については、「海洋地殻は玄武岩質岩(斑糲岩(はんれいがん))である」という説を紹介しており、この岩が帯磁していると考えていたと思われます。
3−2−3 地球膨張説の立場の推定−−星野 通平 の推定
星野(1995)には、1800期間長に、ギルバートが、コロラド高原東部のヘンリー山脈の調査で「ラコリス」を観察したことと、ラコリスの成因が、「地球内部から上昇してきたマグマの圧力が、上にのる地層の重さに等しいとき、ドーム状の岩体をつくって、二つの地層の間にひろがったもの」であるという彼の考えを紹介しています(図3−2−3 参照)。

図3−2−3 ラコリスの図(星野(1995) [引用文献 2] より)
(図の説明の1977はギルバートの生存期間長からして1877の誤りと思われます。)
星野(1995)は、また、ギルバートのラコリス成因論にヒントを得たと思われる彼の地球膨張説も紹介しています。それによれば、「上部マントルが部分的に溶けると、溶けた物質は親の岩石より密度の小さな玄武岩マグマになって膨張し、岩石圏の割れ目を通って、地表や海底に溢れたり、表層の岩石の下にもぐりこむ。溶ける前の母岩に比べて、それから産まれる玄武岩質マグマの堆積は、15%も大きく、冷え固まっても母岩の堆積にもどることはない。この地球膨張のの仕組みによって、中生代以降10〜30kmほど地球半径が増大した。」ということです(図3−2−4)。この説では、海洋地殻は表層の堆積物の下は、ラコリス的な形成過程でできた玄武岩層と推定しています。

図3−2−4 地球膨張説の説明図 (星野(1995) [引用文献 2] より)
3−2−4 プレートテクトニクス(海洋底拡大説)の立場の推定(2) 瀬野 徹三らの推定
瀬野(1995)は、海洋底で新たな海底を生み出す「中央海嶺」付近の状況の図(図3−2−5〜図3−2−6)を紹介しています。これらの考えでは、マントル上部から供給される「メルト」が第2層と第3層の境界付近に「マグマ溜まり」をつくります。そして、ここから上に、海洋地殻最上部には枕状溶岩が、その下の「マグマ溜まり」より上の部分は岩脈が形成され、「マグマ溜まり」と同じ深さ以深では、沈積によるはんれい岩体が形成されるという推定をしています。

図3−2−5 中央海嶺におけるマグマ溜まりと海洋地殻層構造 (瀬野(1995) [引用文献 3 ] より)

図3−2−6 中央海嶺のさまざまなスケールの拡大図の内のC図 (瀬野(1995) [引用文献 3 ] より)
瀬野(1995)は、磁化の幅について特に何も述べていませんが、海洋地殻の上部から下部まで、概ね同じ幅で磁化されると考えていると思われます。もし、磁化の幅が上部と下部で大きく異なっていると考えているのであれば、このことと、海上で観測される縞模様の関係について詳しい説明がされなければならないはずですが、彼は何も説明もなく、海上で観測される縞模様と、古地磁気層序の一致の話に移っているので、磁化の幅は海洋底全体でほぼ同一とみなしていると思われます。
もし、私のこの推論が正しければ、図3−2−5と図3−2−6に地磁気の状態を書き加えた図3−2−7が、この立場の海洋底の内部の推定断面になります。

図3−2−7 海洋底拡大説に基づく海洋底内部の推定断面
(図3−2−5,図3−2−6を参考に、筆者作成)
3−2−5 大洋底内部の玄武岩質岩の産状と帯磁状況の推定
本編で、火山列、地形の火山列の考察のところで、図式的に表現した火山の断面を示しました。ここで、改めてこの図を掲示します(図3−2−8)。火山のもとであるマグマは、この図のように、地表に出てから広がるか、または、前掲の星野の図のように地中でラコリスとして広がるかはわかりませんが、必ず、中心付近のマグマの上昇部分である火道
(割れ目噴火の場合、火道は岩脈状になります)
の水平断面積と、地表の溶岩流の流下・定着面積または、ラコリスの最大水平面積を比べれば、後者の面積が圧倒的に広いはずです。

図3−2−8 火山の図式的な断面図
火山岩の産状を考えれば、溶岩が冷却して、キュリー点を通過して磁石としての性質をもつ時点で、溶岩流なりラコリスなりは非常に広く薄く磁化すると考えるのが自然です。同一の磁化方向を示す範囲は、深部の火道断面積である狭い部分と、地表(海底地表)の溶岩流の広い部分、または、浅部のラコリスの広い部分で面積が全く異なり、したがって、磁化の範囲(幅)を深度方向に一定と考えることは大変おかしなことといわざるを得ません。
海底と陸上で火山の形や火山噴出物の広がり方が本質的に異なると考える必要は一切ありません。ただ、海底では大きな水圧がかかるため、すべてのものが陸上より平べったくなるはずで、このことは考慮しておかなくてはなりません。あくまでも、想定ですが、図3−2−8の火山体をずっと平べったく押しつぶせば、概ねの海底火山の形になると思われます。
熱いマグマが冷え固まって火山岩となるとき、溶岩流は海底に広く、広がります。そこで、帯磁の形態は、同じ帯磁状態が鉛直に延びる「鉛直帯磁モデル」ではなく、同じ帯磁状態が水平に延びる「水平帯磁モデル」で、考えるべきです。
4 大洋底の火山岩の「層厚−形成時間」関係
ある期間内に噴出した溶岩の総量については、
- 溶岩の総量 = 溶岩の広がりの面積×溶岩の平均の厚さ (溶岩噴出期間当たり)
−−4−1式
という式が成立するといえます。
大洋では、「地磁気の逆転が起こるような」長い時間間隔に対しても、「溶岩流の面積」が広大なので、溶岩の平均の厚さはそれほどは厚くならず、かつ、層厚の変動もそれほど大きくないと予想されます。
一般に、火山噴出物の「層厚−形成時間」関係も、「溶岩」を「火山噴出物」に書き換えた4−2式で表現できているでしょう。
ある期間内に噴出した火山噴出物の総量についても、
- 火山噴出物の総量 = 火山噴出物の分布面積×火山噴出物の平均の厚さ (噴出期間当たり)
−−4−2式
という式が成立するといえます。
陸上の火山については、4−2式の各数値に概略の値がある程度推定されています。なので、正確性には多分に問題がありますが、陸上火山のデータを用いて、大洋底の火山岩の「層厚−形成時間」関係を推測することは可能でしょう。
5 古地磁気層序の概略
中島 他 (2006) [引用文献 4 ] より、現在用いられている地磁気極性期間長尺度を図5−1に示します。

地磁気極性期間長尺度 (中島 他 (2006) [引用文献 4 ] より)
この説明によれば、これは、「大西洋の海底地磁気異常のパターンをベースにして、海底コアの古地磁気および微化石層序の解析結果や、古地磁気測定が行われた火山岩の放射期間長を基につくられている。」ということです。
このページの意見として述べているように、私は、海底地磁気異常のパターンを層序に結びつけるのは誤りであると考えています。その他の推定方法は正しいので、この尺度には「正しいものからの推定」と「誤ったものからの推定」が混合してしまっていることになります。なので、これが、どの程度正しいのかわかりませんが、面倒なので、以下では、これは正しいものとして扱います。
図5−1から、最近の部分の概略を改めて表として、表5−1に示します。
表 5−1 最近4磁極期の長さ
| 磁極期 |
始まり |
終わり |
長さ |
| ブリュンニュ(正) |
約78万年前 |
0年 |
約78万年 |
| 松山(逆) |
約258万年前 |
約78万年前 |
約180万年 |
| ガウス(正) |
約358万年前 |
約258万年前 |
約100万年 |
| ギルバート(逆) |
約589万年前 |
約358万年前 |
約231万年 |
6 大洋底の地磁気異常層の厚み
6−1 大洋底の地磁気異常層の厚み(その1 第四紀火山の噴出量からの推定)
表 5−1より、地磁気の向きが変わるのは、約78万年〜231万年程度の時間間隔であるといえます。この間の噴出溶岩の厚さは一体どのくらいなのでしょうか。ここでは、ごく間接的な方法で、厚みの見当をつける試みをしてみます。
守屋(1983) [参考文献 8 ] は、50万年前以降に活動した日本の第四紀火山の噴出量を1万キロ立方キロメートル近いと推定しています。また、それでも年間の、噴出量は日本はハワイの約1/5にすぎないとも述べています。理科年表[参考文献 9 ]では、日本の第四紀火山岩の分布面積は33168平方キロメートルとしています。50万年、1万立方キロメートルと、この面積を使うと、50万年の日本の第四紀火山噴出物の平均の厚さは
1万立方キロメートル/33168平方キロメートル = 0.3015キロメートル (50万年)
となります。仮に、これを、大洋底の、溶岩流の厚さ−期間長関係を示すものとすると、
301.5 m/50万年 = 6.03 m/万年
で、1万年当たり約6mのスピードで、厚さが増えていくことになります。
そこで、78万年で、
6.03 m/万年 × 78万年 = 470..3 m= 0.4703 k m
231万年では、
6.03 m/万年 × 231万年 = 1.3929 k m
になります。
また、仮に、これの5倍の噴出量からの値を、大洋底の、溶岩流の厚さ−期間長関係を示すものとすると、
(301.5 m × 5)/50万年 = 30.15 m/万年
で、1万年当たり約30mのスピードで、厚さが増えていくことになります。
そこで、78万年での層厚は、
30.15 m/万年 × 78万年 = 2.352 km
231万年では、
30.15 m/万年 × 231万年 = 6.965 km
になります。
しかし、陸上の火山の化学成分は変化が大きく、溶岩になったときの流動性は、大きなものから、非常に小さなものまであります。それに対して大洋底の火山の化学成分の変化の幅は小さく、ほとんどが溶岩になったときの流動性が大きなものばかりです。それと、陸上で上からかかる圧力は大気圧のみですが、大洋底では大気圧とこれとは比較にならない大きさの海水の大きな水圧が加わります。この2点から、上の推定方法は、非常に過大な値を示している可能性が高いといえます。上の数値は、間違ってもこれより大きくはないという目安といえます。
6−2 大洋底の地磁気異常層の厚み(その2 日本海海底ボーリングデータからの推定)
次に、日本海海底のボーリングデータを用いて、大洋底の地磁気異常層の厚みの推定を試みます。
図6−1 日本海海底ボーリングデータ
能田(2008) [引用文献 5] より日本海海底で行われたボーリングの柱状図を示します(図6−1)。この中の左側の2つのサイト(Site)の資料をみると、地層累重の法則が成立していないことがわかります。同法則が成立しない岩体のうち、火山岩体で、岩脈・岩床の産状を示すものの中の岩床(シル)であると考えられています。一方右端のSite795では、地層累重の法則が成立しているように見えます。これだけでは、本当に成立しているかどうか明確な判断はできませんが、ここでは、Site795は、海底溶岩流で、地層累重の法則が成立しているとみなすことにします。
Site795の17.1Maと、23.7Maの試料の間の、もとの図上の距離は、約8mmで、これは、この図上では実測の50mに相当します。そこで、
23.7Ma − 17.1 Ma = 6.6Ma
50m / 6.6Ma= 7.576 m/Ma
つまり、百万年分の溶岩の厚みは、7.6mほどということになります。この厚さ−期間長関係を用いて、先程と同様の計算をしてみると、
78万年では、
7.576 m/Ma × 0.78 Ma = 5.909 m
231万年では、
7.576 m/Ma × 2.31 Ma = 17.501 m
と大変薄くなります。
表5−1の範囲の期間について、この厚さ−期間長関係で層厚を計算してみます。そして、仮に、海底面下にこの層厚で成層しているとすると、海底面から測った各層の下面の深度は、表6−1のようになります。
表 6−1 厚さ−期間長関係で計算される磁気異常層の層厚
(厚さ−期間長関係の定数を 7.576 m/Ma とした場合)
磁極期 (正/逆) |
期間長 (100万年=Ma) |
層厚(m) |
海底面からの 層下端深度(m) |
| ブリュンニュ(正) |
0.78 |
5.91 |
5.91 |
| 松山(逆) |
1.80 |
13.64 |
19.55 |
| ガウス(正) |
1.00 |
7.58 |
27.13 |
| ギルバート(逆) |
2.31 |
17.50 |
44.63 |
6−1の推定とは、桁からして違います。どちらも、大洋底のデータそのものではないので、正確ではありませんが、どちらが、実際の大洋底のものに近いかといったら、断然、後者の方だろうと思われます。日本海の地殻の厚みは太平洋などの大洋底の地殻の厚みより、大分厚いことが知られていますから、実際の大洋底の海底の溶岩流の厚さ−期間長関係の定数は、これより、さらに小さくなっていることは大いに考えられます。
7 大洋上で観測される地磁気異常の縞模様の解釈(その1 磁石モデル)
これまで述べてきたように、大洋底の海底の溶岩流の厚みは、薄く、かつ、その広がりは広大で、海洋底内部は、同じ帯磁状態が水平方向に延びる「水平帯磁モデル」で考えるべきであるとわかります。このモデルで考えると、海上で
(または空中で)
観測される磁気は、「近接する向きが逆の磁石は互いに磁力を打ち消しあう」ので、結局、場所によらず、どこでも、ゼロか、ゼロに近い弱い正または負になると考えられます。(このことは、最初の磁石の実験で示したことから推定できます。)
実際の海上での観測データでは、強い正の縞
(または帯)
や強い負の縞
(または帯)
があることが知られており、この推定は、観測データと矛盾します。何が間違っているのでしょうか。
こんなことを考えていたとき、次の図7−1を「発見」しました。これで、簡単に謎が解けました。いままでの推定では、鉛直に延びる薄い構造帯
(地殻深部断裂帯といっても良いと思います)
といった考えがありませんでしたが、海上で認められる地磁気異常の正または負の強い縞は、海底下の鉛直の構造帯の中の帯磁物質を反映していると考えれば良いのです。
図7−1 鉛直の薄い磁性体による地表での磁気を示すモデル
(萩原 (1991) [引用文献 6] より)
つまり、地磁気の測定値の単純化を行うとき、従来のように、正と負で2値化する単純化を行なわず、強い正、強い負、とゼロまたは弱い正または負の3値化をしてみれば、図7−2のようなモデルが描け、これで、すべてうまく説明できることになります。
図7−2 大洋上で観測される地磁気異常の縞模様の解釈(その1 磁石モデル)
鉛直に延びる薄い構造帯
(=地殻深部断裂帯)
中の物質が強い磁性を持ち、これが海上で観測される磁気に大きく影響する
(黒または白になる)
。
一方、海底の帯磁溶岩流は、各帯磁層の厚さはさほど厚くなく、かつ、正と負が交互に重なるので、離れた観測点である海上では、正と負が打ち消しあって、結局ゼロ(ほぼ帯磁していない)ような観測値になる
(灰色になる)
。
このように考えれば良いはずです。海上で観測される地磁気異常の縞模様は、海底の溶岩の帯磁状況を示しているのではなく、海底下の地殻内に鉛直に発達した断裂系の中の物質の帯磁状況を示していると考えるべきだというのが私の意見です。
8 陸上で観測される地磁気異常の(縞)模様と地質との関係
8−1 日本列島付近の地磁気異常の概要
萩原 (1991) [引用文献 6] より、日本列島付近で観測された地磁気異常の縞模様を図8−1−1に示します。
図8−1−1 日本列島付近の地磁気異常図
(萩原 (1991) [引用文献 6] より)
図8−1−1 は、海陸の各々の測定結果を一定の方式で合成した総合図で、海陸の地磁気異常を
一体として観察できるように作成されたデータです。が、ここでは、あえて日本列島の陸上部分と海洋部分を分けて、陸上部分のみ詳しく見ることにします。陸上では、こまかな地質のデータが得られていて、これと地磁気異常との関連をかなり詳細に観察できますが、海洋の地質データは陸上とは比較できないレベルなので、海洋では、地質と地磁気異常の関係をこまかく見ることができないからです。
陸上の地磁気異常の特長について見てみましょう。
ちょうど大洋の明瞭な縞模様と同様の縞模様は、日本列島の陸上では、北海道中央部に南北に延びたものが見られます。
北九州の直近北側の海底から、山陰西部で陸に上がり、中国山地を通って、丹後半島から若狭湾にかけて、東北東−西南西に延びるやや太い縞模様があります。これは越前海岸で再び陸上に上がり、能登半島の付け根南側で終わっているように見えます。しかし、この縞は三陸沖の太平洋で見られるような典型的な大洋の縞模様とは、太さ、シャープさで大いに異なっています。
三陸の太平洋沿いから、北に延びる南北の明瞭な縞があり、これはちょうど最初に述べた北海道中央の縞と平行な関係にあるように見えます。ただし、この縞は、北海道では、苫小牧付近の沖積低地に少しかかるぐらいなので、北海道で陸上の地質との関係はつかむことはできません。
大洋の明瞭な縞と同様ないしそれに近い縞で、日本列島の陸上で認められるのは、結局、北海道中央の南北の縞と、三陸太平洋岸付近の南北の2箇所のみといえるでしょう。
縞にはなっていませんが、まだらな不規則な模様になっている磁気異常の強い箇所は各所にみられます。そのうちのあるものは第四紀火山に合致しているように見えます。
以下では、北海道、九州の2地域について、地磁気異常の模様と地表で認められる地質との関係について、詳しく検討してみます。
(なお、この検討にあたっては、引用文献 6 の地磁気異常のデータを用いています。参考文献 10 にも地磁気異常のデータがありますが、データのないところも明示されていること等から、前者のほうがおそらくより詳細なデータであろうという判断をして、前者のデータを使いました。大雑把にみれば、両データは当然似たようなものですが、以下で注目するような詳細な分布状況については、かなり相違もあります。)
図8−1−1を加工して、正の地磁気異常を示すところだけを強調した図8−1−2と、負の地磁気異常を示すところだけを強調した図−8−1−3を作ってみました。
図8−1−2 日本列島付近の正の地磁気異常図
(正の異常が強い部分の抽出図)
( 図8−1−1 を加工して作成 )
図8−1−3 日本列島付近の負の地磁気異常図
(負の異常が強い部分の抽出図)
( 図8−1−1を加工して作成 )
図8−1−2では、上に述べた各縞模様がよりくっきりと示されています。 図8−1−3では、近畿地方を中心に、中国地方から中部地方西部にかけてかなり広い範囲で負の地磁気異常が弱くなっています。
8−2 北海道の陸上で観測される地磁気異常の縞模様と地質との関係
8−2−1 北海道の地磁気異常と地質との関係の概略検討
北海道の第四紀火山の分布(図8−2−1)と、地磁気異常(図8−2−2)と、神威古潭帯の地質概略図(図8−2−3)を並べてみると、地磁気異常の縞模様は、神威古潭帯の地質に反応したものであることが明瞭に読み取れます。
上左:図8−2−1 北海道の第四紀火山の(中心点の)分布図
上中:図8−2−2 北海道の正の地磁気異常図
上右:図8−2−3 神威古潭帯の地質概略図
(図8−2−3は、加藤 他 (1990) [引用文献 7] より [同文献の図2.11 を着色])
図8−2−4 北海道の負の地磁気異常図
第四紀火山のうち、道西と道央の火山では正の地磁気異常図に現れる正の地磁気異常を示すものがありますが゜、道東の火山は、正の地磁気異常図に現れるような強い正の地磁気異常の火山は、測定値のある範囲内では、ほぼ皆無です。
第四紀火山のうち、道西の火山では負の地磁気異常図に現れる負の地磁気異常を示すものが相当数あります。道東の道央の火山は、負の地磁気異常図に現れる負の地磁気異常のを示すものが正のものより大分多くなっています。道東の火山は、測定値のある範囲にあるものはわずかですが、これらはいずれも負の地磁気異常図に現れる負の地磁気異常の火山です。
神威古潭帯の地質の中では、「縞」は、特に、「蛇紋岩」に反応してできているように見えます。したがって、北海道の陸上の地磁気異常の縞模様は、神威古潭帯の蛇紋岩体(超苦鉄質岩体)の磁性を示していると推定できます。
8−2−2 北海道の地磁気異常と地質との関係の詳細検討
陸上の地磁気異常と地質との関係をより詳しく見るため、各図の縮尺を合わせて、関係の深いと思われる事象を重ね合わせて描いた、図8−2−5と、 図8−2−6を作ってみました。各火山については、個別に地磁気異常の正負を判断して正の火山を桃色で、負の火山を青色で表示しました。正の地磁気異常図に現れるほど強い正ではないが、負の地磁気異常図の中では、周囲より相対的に正になっている火山も正に帯磁している火山として、黄緑色で表示しました。
図8−2−5 北海道の正の地磁気異常と地質の関係を示す図
図8−2−6 北海道の負の地磁気異常と地質の関係を示す図
図8−2−5 から、前述の神威古潭帯の縞は、北海道の陸上の地磁気異常の縞模様は、神威古潭帯の蛇紋岩体(超苦鉄質岩体)の磁性を示しているという前述の推定はより確実に示されていると判断できるでしょう。
これらの図で、火山も明らかに磁気異常の反応を示していますが、その平面形態は、「縞状」ではなく、「点状」ないし、「小円〜小楕円状」、あるいは、「不規則形」であるという特長がみられます。
以上では、図8−2−5、図8−2−6で、地磁気異常を示すところは、神威古潭帯の超苦鉄質岩体と、第四紀火山が挙げられることを述べてきましたが、これだけでは説明できない地磁気異常分布箇所もかなりあります。火山はより古い時代にもありました。だから、より古い火山の火山岩もそのときの地磁気の方向にしたがって、正または負に帯磁していたはずです。当然、より古期の火山岩の分布域も地磁気異常のある地域になる確率が高いでしょう。図−8−2−7は、北海道の新第三紀火山岩類の分布図です。この図と、特に図8−2−6の地磁気異常が強い所と調和的であるのは、当然と思われます。
]
図8−2−7 北海道の新第三紀火山岩類の分布図
( 加藤 他(1990) [参考文献 7]の裏表紙裏の見開きの地質図]より作成 )
これ以外の図8−2−6の異常が強い所は、道央の新第三紀堆積岩分布域にもみられます。これらは、おそらく、堆積岩中の火砕物質に反応したものでしょう。
図8−2−6では、負の異常が特に強い所を明示してあります。1カ所は樺戸山地から石狩平野北東部にかけての地域(樺戸山地地域と読んでおきます)で、もう一カ所は、石狩山地東端の利別川(としべつがわ)北西側から、同川の南東側の白糠丘陵にかけての地域(白糠丘陵地域と読んでおきます)です。
樺戸山地地域の一部には、中古生界もありますが、異常が強い地域の大部分は新第三紀層の分布域で、鮮新世の玄武岩体が地表に散在しているので、おそらく、これらの岩体が異常の原因と思われます。
白糠丘陵地域には、古第三紀層が分布しています。しかし、負の異常が特に強い所は、古第三紀層の分布域だけでなく、隣接する新第三紀層や第四紀層や、中古生界にもまたがっているので、この付近の地表には現れていない火山岩の貫入岩体による可能性が考えられます。この地域の磁気異常の原因について、明確なことは残念ながらなにもわかりません。
8−3 九州のの陸上で観測される地磁気異常の縞模様と地質との関係
8−3−1 九州の地磁気異常と地質との関係の概略検討
九州についても、第四紀火山の分布(図8−3−1)と、正の地磁気異常図(図8−3−2)と、蛇紋岩などの超苦鉄質岩の分布(図8−3−3)を並べてみました。さらに、佐賀県の北東部の背振山地(せふりさんち)付近で、顕著な正の磁気異常があり、ちょうどこの付近には、「白亜紀花崗岩類」が分布しているので、その右に白亜紀花崗岩類の分布(図8−3−4)も並べてみました。
また、その下に負の地磁気異常図(図8−3−4)を掲示してみました。
上左端:図8−3−1 九州の第四紀火山の(中心点の)分布図
上中左:図8−3−2 九州の正の地磁気異常図
上中右:図8−3−3 九州の超苦鉄質岩の分布図
上右端:図8−3−4 九州の白亜紀花崗岩類の分布図
図8−3−5 九州の負の地磁気異常図
九州では、「縞状」の地磁気異常のパターンは認められません。九州の地磁気異常の模様の平面形は、「点状」、「楕円状」、「短冊型」や、その他の「不規則型」です。そして、正の異常、負の異常とも、火山と関係が深いところが圧倒的に多いことがみてとれます。
正の異常が強い所はさほど広くなく、中央部の北北東−南南西方向に点在する正の異常が強い所は、いずれも火山によるものと考えられます。
北西部の佐賀県方面の脊振山地南部には火山はありませんので、この地域の異常は別の原因によるものです。可能性として、上の図のように、超苦鉄質岩によるものか、白亜紀花崗岩類によるものか2通りをあげ、どちらによるものか、分布状況などから推定してみました。九州のデータだけからは、判定できませんでしたが、前述の北海道での状況と、ここではまだ提示できませんが、予察的に行った、中国地方での地磁気異常と地質との関連性の調査で、中国地方では、白亜紀花崗岩と地磁気異常の関連が非常に薄いことが明らかになったので、九州のこの地域の異常も、超苦鉄質岩体によると判定しました。
南東部の宮崎市西方にも、正の地磁気異常の強いところがあります。ここは、四万十帯の分布域内です。ここについては、詳細検討で述べます。
詳細な検討をするために次の図8−3−6と、図8−3−7を作成しました。
8−3−2 九州の地磁気異常と地質との関係の詳細検討
図8−3−6 九州の正の地磁気異常と地質の関係を示す図
図8−3−7 九州の負の地磁気異常と地質の関係を示す図
(a)九州の第四紀火山と地磁気異常
九州でも、各火山が正に帯磁しているか、負に帯磁しているか判定して、各々桃色と青色で示しました。
九州の火山では、正に帯磁している九重、阿蘇山、霧島山、桜島、川内、口永良部島などと、負に帯磁している由布山、阿蘇カルデラ、加久藤、薩摩丸山、、薩摩硫黄島など、各山によって状況はことなっています。負の異常が特に強い所が4カ所ほどありますが、いずれも、火山によるものと思われます。中央の北側には、豊肥や由布山などの直近の強い所があり、その南南西に阿蘇カルデラの強い所があり、さらに、その南南西の蘭牟田や薩摩丸山付近に狭いが異常が強い所があります。これら3箇所とは別に、東松浦半島と壱岐の間の海底に負の異常の強いところがあります。ここは、海底なので、明確なことはわかりませんが、近くの壱岐に火山があり、おそらく火山性のものと思われます。
(b)中部古期岩類と負の地磁気異常
九州で負の磁気異常が強いところは、概ね古期岩体の分布域と調和的にみえます。中南部では、概ね四万十帯北帯の分布域と、中北部では、長崎変成岩や三郡変成岩と分布が調和的です。各層の何に反応したものかはわかりません。
(c)北部脊振山地地域の正の地磁気異常の解釈
前述のように、佐賀県北東部から福岡圏境の脊振山地に明瞭な正の異常が強い地域があります。前述のように、九州以外の他地域の状況も考慮に入れて、これは、脊振山地南部帯の蛇紋岩などの超苦鉄質岩体に反応したものと判定しました。
(d)超苦鉄質岩の地磁気異常
超苦鉄質岩の分布と、磁気異常図を比べてみると、脊振山地以外の超苦鉄質岩体が磁気異常に影響を与えている様子は充分明確であるとはいえません。しかし、図−8−3−6と図−8−3−7に示したように、各箇所で正に帯磁した岩体と負に帯磁した岩体とが分布していると解釈すると、磁気異常図のパターンと矛盾を生じません。特に、、球磨川下流地域の黒瀬川構造帯の蛇紋岩体の帯状分布と、負の地磁気異常図の中で相対的に正の異常が強い部分の白抜けの帯は、よく調和しており、これらの岩体が正に帯磁していることを示していると考えられます。
(e)対馬の地磁気異常の解釈
対馬の地質は、唐木田他 (1992)の記述によれば、概ね間瀬階から西彼杵階までの堆積物である対州層群の堆積層が主体で、これが概ね北東−南西方向を軸とする褶曲をくりかえしています。そして、南部では、この岩体への花崗岩類や、粗粒玄武岩や流紋岩類の貫入がみられます。北部、南部の一部には、斜長斑岩が岩床状に貫入しているということです。斜長斑岩の貫入は、褶曲の形成前、その他の火成岩の貫入は、褶曲形成後と考えられています。
対馬の正の地磁気異常は、北西端部で強くなっています。地層の分布域から、この異常は、対州層群下部の堆積物に反応したものの可能性が高いといえます。対馬の負の地磁気異常は、逆に、南東部で強くなっています。地層の分布域から、この異常は、やはり、対州層群下部の堆積岩かこれに貫入している火山岩に反応したものと思われます。いずれにしても、ここでは、最新の(=第四紀の)火山噴出物に反応したわけでも、蛇紋岩に反応したわけでもありません。古い、おそらく火山性の何かに反応したものと思われます。
なお、間瀬階は、古第三紀の後期始新世後期で、西彼杵階は、古第三紀の前期漸新世なので、絶対期間長では、37−28Ma(Ma:百万年)程度、つまり、対州層群は、3千7百万年前〜2千8百万年前ころの堆積物と思われます。
(f)宮崎市西方の正の地磁気異常の解釈
宮崎市西方の四万十帯南帯の分布域の中にも、かなり明瞭な正の磁気異常がみられます。この地域は、第四紀火山の噴出物が流下して堆積した地域でもあるので、この異常が第四紀火山噴出物にからむものである可能性を否定することはできませんが、それにしては異常の範囲が狭いので、やはり、異常の原因物は、四万十帯中にさがすのが妥当と思われます。
唐木田 他(1992) [参考文献 11] によれば、この異常の強いところは、日南層群の整然層(オリストリス)や乱雑層や、その中に狭く、不規則な形で分布する緑色岩体の分布域で、正常な堆積状況を示していない、少し、地質的に特殊な所のようです。これらの中の何に反応したのかは、わかりません。非正常な堆積構造・地質構造の原因と、地磁気異常と何か関係があるかもしれません。
(g)大隅半島・薩摩半島・屋久島・種子島などの負の地磁気異常の解釈
この地域の基盤は四万十帯であり、これに中新世の深成岩体や第四紀の火山砕屑物層なども分布している。かなり広い範囲で負の地磁気異常がみられるが、これが、これらの内何によるものかはわかりません。
8−4 陸上で観測される地磁気異常の縞模様と地質との関係のまとめ
以上の北海道と九州での詳細な検討で、次の2点が明瞭になりました。
- 陸上で明瞭な地磁気異常の縞模様の原因は、神威古潭帯や黒瀬川構造帯のような構造帯内に帯状分布する蛇紋岩体(超苦鉄質岩体)の磁性である。
- 陸上の火山も多くのところで、地磁気異常を引き起こすが、その地磁気異常の平面形は、「点状」、「円状」、「楕円状」、その他の「不規則型」で、「縞状」にはならない。
9 大洋上で観測される地磁気異常の縞模様の解釈(その2 地質モデル)
図7−2の磁石モデルに、北海道と九州について行った地磁気異常と地質の関連性の検討から明らかになった関係から、地殻深部断裂帯の主体を蛇紋岩体(超苦鉄質岩体)とし、その他の場所も前述の資料を合わせて産状と岩石種を想定して図9−1として示しました。これが、現在のところ、私の考える最も正しいであろう地磁気異常の縞模様の解釈です。
図9−1 大洋上で観測される地磁気異常の縞模様の解釈(その2 地質モデル)
大洋上で観測される地磁気異常の縞模様は、海底火山帯を示すのではなく、「いわば『海底神威古潭帯』や、『海底黒瀬川構造帯』を示すものである」というのが、私の意見です。
10 まとめ
以上、長々と述べてきたことを、改めて、記述順に、まとめて以下に示します。
- 近接してある、向きが逆の磁石は、互いに磁力を打ち消しあう
- 磁石の磁力の大きさは、磁石と観測点との距離に関係し、同じ磁石は、より遠くでは、磁力がより弱くなる
- 大洋底表層は、溶岩流である
- 大洋底内部の状態は、必ずしも明らかになっていない
- 大洋底が溶岩流あるいは、ラコリスといった産状の火山岩なら、これらの層は、非常に薄く広くひろがっていると推定される
- 古地磁気の研究で、標準的な古地磁気層序が推定されている
- 日本海海底のボーリング資料から、溶岩の層厚とその形成期間の関係が得られている
- 上記の関係と、標準的な古地磁気層序から、大洋底の地磁気異常層の断面層厚仮定計算ができ、これによれば、大洋底は、正と負の各層が大変薄い互層になっている
- 大洋底の大変薄い、地磁気異常の互層を遠く離れた観測点である海上で測定すると、各層の正と負が打ち消しあうので、場所によらず、どこも皆、ゼロかゼロに近い弱い値になるはずである
- 実際には、大洋の海面では、強い地磁気異常の縞模様が観測されている
- 地下に鉛直にのびる板状の磁性体岩脈が地表に強い縞状の地磁気異常の模様をつくり出すことが゜モデル計算によって示された
- 大洋底に地層とは別に、鉛直に板状にひろがる地殻深部断裂帯を想定して、ここが強く帯磁している(磁性体になっている)とすると、海面での観測結果と全く矛盾を生じない
- 日本列島では、陸上の地磁気異常のデータもとられ、まとめられている
- 陸上の地質は詳細に調べられているので、陸上では、地磁気異常と地質の関連性を詳しく検討することができる
- 北海道と九州について、地磁気異常と地質の関連性の詳細検討をして、
- 陸上で明瞭な地磁気異常の縞模様
(帯)
の原因は、神威古潭帯や黒瀬川構造帯のような構造帯内に帯状分布する蛇紋岩体(超苦鉄質岩体)の磁性である
- 陸上の火山も多くのところで、地磁気異常を引き起こすが、その地磁気異常の平面形は、「点状」、「円状」、「」楕円状」、その他の「不規則型」で、「縞状」にはならない
ことを明らかにした
- 以上より、大洋上で観測される地磁気異常の縞模様は、海底火山帯を示すのではなく、「いわば『海底神威古潭帯』や、『海底黒瀬川構造帯』
(地殻深部断裂系)
を示すものである」という結論を得た
当然、海洋底拡大説は誤りであるというのが、私の意見です。
引用文献
文献 1: 上田 誠也(うえだ せいや) 著 1971 新しい地球観 岩波新書(青版) 779
岩波書店 p.83
文献 2: 星野 通平(ほしの みちへい) 著 1995 地球の半径−構造地質学史の一断面
東海大学出版会 p.16, p.66
文献 3: 瀬野 徹三(せの てつぞう) 著 1995 プレートテクトニクスの基礎
朝倉書店 p.69, p.72
文献 4: 長谷川 四郎, 中島 隆, 岡田 誠 著 2006 層序と年代 フィールドジオロジー2
共立出版 p.28
文献 5: 能田 成(のうだ すすむ) 著 2008 日本海はどう出来たか [叢書・地球発見12]
ナカニシヤ出版 p.161
文献 6: 萩原 尊禮(はぎわら たかひろ) 著 1991 日本列島の地震−地震工学と地震地体構造
鹿島出版会 p.115, 口絵−4
文献 7: 加藤 誠・松井 愈・北川 芳男・勝井 義雄 編 1990 日本の地質1 北海道地方
共立出版 [p.24,]
参考文献
文献 1: 上田 誠也(うえだ せいや) 著 1971 新しい地球観 岩波新書(青版) 779
岩波書店 pp.63-86
文献 2: 星野 通平(ほしの みちへい) 著 1995 地球の半径−構造地質学史の一断面
東海大学出版会 pp.11-25, pp.65-67
文献 3: 瀬野 徹三(せの てつぞう) 著 1995 プレートテクトニクスの基礎
朝倉書店 pp.69-79
文献 4: 長谷川 四郎, 中島 隆, 岡田 誠 著 2006 層序と年代 フィールドジオロジー2
共立出版 pp.25-29
文献 5: 能田 成(のうだ すすむ) 著 2008 日本海はどう出来たか [叢書・地球発見12]
ナカニシヤ出版 pp.157-162
文献 6: 萩原 尊禮(はぎわら たかひろ) 著 1991 日本列島の地震−地震工学と地震地体構造
鹿島出版会 口絵−4, pp.114-117, pp.117-118, pp.125-126
文献 7: 加藤 誠・松井 愈・北川 芳男・勝井 義雄 編 1990 日本の地質1 北海道地方
共立出版 [p.24, 裏表紙裏の見開きの地質図, p.96, p.57]
文献 8: 守屋 以智雄(もりや いちお) 著 1983 日本の火山地形
東京大学出版会 pp.105-106
文献 9: 国立天文台 編 2004 理科年表 平成17年版(机上版)
丸善 p.地96(654))
文献 10: 日本列島の地質編集委員会 編 2002
理科年表読本 コンピュータグラフィクス 日本列島の地質CD−ROM版
丸善 第2章 日本列島の地質(の中の
北海道の地質図、九州の地質図、中国地方の地質図など)
文献 11: 唐木田 芳文・早坂 祥三・長谷 義隆 編 1992 日本の地質9 九州地方
共立出版 p.13, p.47, p.77, p.121など