地学・トピック10 アイソスタシーとマントル物質・地殻物質の物性
[初期掲載 2010年 5月]
目次
1 アイソスタシーのおさらい
2 何の上に何が浮いているのだろうか?
3 アイソスタシーは成立しているか?
4 物の性質(物性)のおさらい
5 アイソスタシーの証拠
6 アイソスタシーから推定されるマントル物質の物性
7 何の上に何が載っているかの推論
8 マントルのバネとしての強さ
9 地殻などの構造異方性・運動異方性
10 まとめ
1 アイソスタシーのおさらい
アイソスタシーについてのあれこれを参考文献を新旧いろいろとあさって、おさらいしてみます。
1−1 ブーゲーとアンデス
佐藤 捨三(1967)・山下 昇(1967)によれば、1700年代に、ブーゲーが南米のアンデス山塊による重力の偏りを調べて、 アンデス山塊による引力が予想より遥かに小さいことを報告したが、学会の注目を引かなかったということです。
1−2 プラットとヒマラヤ
佐藤 捨三(1967)や藤本 治義・柴田 秀賢(1966)によれば、プラットが1855年ヒマラヤの南麓を三角測量中に、南北2点間の鉛直線の偏差が計算値より実測値がずっと小さいことを発見(!)し、原因を明らかにできないまま、このことを発表したということです。
1−3 エアリー説・プラット説
佐藤 捨三(1967)や藤本 治義・柴田 秀賢(1966)によれば、エアリーは、直ちに、この現象を説明する
「密度の小さい陸地が、密度の大きい物質の上に浮かんでいて、山岳の下の質量の欠如は、密度の大きいシマの中に食い入る陸地の根によって引き起こされる」という説を発表したということです。
プラットも、続いて、この現象の原因として、
「山岳の地下には平原の地下より質量の不足があって、これが地表の凹凸をおぎなっている」いう説を発表したということです。
また、後の1889年にダットンが、これらの説を「アイソスタシー」とよんだということです。
エアリー説とプラット説の説明図を図1に示します。
図1 アイソスタシーのエアリー説・プラット説
(山下 昇(1967)より)
2 何の上に何が浮いているのだろうか?
上述のように、アイソスタシーの考え方が出て来たときは、シマの上に山岳(シアル)が浮いているという考えだったようですが、その後モホ面をしっかり認識するようになると、マントルの上に地殻が浮いているイメージに変わり、最近一部では、「アセノスフェア」の上に、「リソスフェア」が浮いているイメージで捉えている方もいるようです。
「何の上に何が浮いているのだろうか?」ということは、「アイソスタシー」という言葉の実態化のとき、明確にしなければならないことです。ここでは、まず、参考文献に現れた各々の考え方を紹介しておきます。次に「アセノスフェア」についての私の考えを述べておきます。
2−1 シマ層の上ににシアル層が浮いているモデル
古本のシャンド(1942)に載っている、シマ層の上ににシアル層が浮いているモデルの図を図2に示します。「シマ層の上ににシアル層が」と書いてしまいましたが、図や、本文を読むと、この時代は、「岩漿状玄武岩」の上に「主に花崗岩よりなる大陸」が浮いているイメージで捉えていたという方が正確です。
図2 シマ層の上ににシアル層が浮いているモデル
本文で玄武岩と花崗岩の比重の違いから、大陸の平均的な高さを求める計算をしています。具体的には、アフリカ大陸の平均海抜を約2千フィート
(約610m)
、大西洋、インド洋の平均の深さを約
1万フィート
(約3050m)
とし、玄武岩質岩漿の最上部から、大陸が突き出している高さを1万2千フィート
(約3660m)
とし、
玄武岩質岩漿の比重を2.85、大陸の花崗岩の比重を2.65として、アイソスタシーから
大陸の厚みを x(フィート)として、
x×2.65 = ( x - 12000 )× 2.85 + 10000× 1.00
という式を作り、これを解いて
x = 12100 フィート (約23マイル)
(約36905m, 約36.9km)
という計算をしています。
「玄武岩質岩漿」の性質について述べている部分を引用してみます。なお、漢字は現在の字に直し、漢数字をアラビア数字になおし、単位の「呎」は、「フィート」に書き換えてあります。
「(前略)地質学的証拠は、固い地殻の下には何処でも可塑性物質の層が存在することを暗示するのみでなく、その存在を積極的に要求するものである。」「上層をなしている岩石の及ぼす圧力は極めて大きい故、この可塑性物質、即ち岩漿は普通の液体のように容易に流動することは出来ないに相違ない。然し、今、2点がありその間に相当の圧力の差異が生じたとすれば、岩漿は一方から他方に徐々に流れるであろう。その場合、岩漿がどの位の速さで流れるかは、地殻が1世紀の間に1、2フィート位しか運動しないということを考えれば大体の見当をつけ得ることと思う。」
塑性体と粘性の強い粘性流体とを混同しているようにもみえます。が、概ね、「玄武岩質岩漿」の性質については、著しく粘性の強い粘性流体として理解していたようです。
2−2 マントルの上に地殻が浮いているモデル
A.カイユ(1970)によるマントルの上に地殻が浮いているモデルの図を図3に示します。
図3 マントルの上に地殻が浮いているモデル
A.カイユ(1970)による説明を要約するとつぎのようです。
ある地点で、理論的に導きだされるその点の重力と、重力の実測値に補正を施したものとの差を、その点の重力異常といい、高度による補正と岩石の質量による補正をともに考慮した補正方法がとれらたものが「ブーゲー異常」とよばれる。このブーゲー異常の測定結果から、「地球の表面で高度の高い地域ほどその下に軽い物質があり、高度の低い地域ほど重い物質がある、ということになる」。ここから、「地殻の各部分は立て割りになっていて、それぞれの部分が平衡になっていると考えてよい」。「この考えをアイソスタシーとよぶ(アイソはギリシア語で等しいという意味、スタシーは状態という意味を表している)。」
A.カイユ(1970)は、「密度が2.7から2.8の軽い地殻が、約3.3の密度の重いマントルに浮いている。沈みこんだ大洋底の地殻は5kmから7kmの厚さしかなく、大陸の平野部では中くらいの厚さ(37km)であり、山岳部の下では40kmから70kmの厚さもあり、一種の根のような形をしている。」これは、エアリーの説のようなことで成立しているだろうが、「はっきりと証明されたわけではない。」ともいっています。
(原文の漢数字をアラビア数字に変え、「キロ」を「km」に書き換えてあります。)
また、A.カイユ(1970)によるマントルの性質の説明をそのまま引用してみます。
地殻の下の物質は液体のような挙動をすることができるのであろうか。地震や人工爆発からみると、これは堅い、弾性的な物質の性質をもっているのであるが...。しかし力学の理論とわれわれの経験からすれば、この二つの事実はお互いに矛盾するものではない。一つの物体が、地震のように短時間に急に働く力に対しては固体のようにふるまい、地質学的な時間スケールで長年月にわたり持続的にゆっくりと働く力に対しては、液体か糊のようなふるまいをする、ということはありうることである。たとえば封ろうは、カンと打つと固体のように割れてしまうが、引き出しの中に入れてしまっておくうちに、ぐにゃぐにゃに曲がってしまう。
同じ物体が歪み速度の違いによって、弾性体(固体)にも、粘性流体にもなり得るという説明をしています。
2−3 アセノスフェアの上にリソスフェアが浮いているモデル
瀬野(1995)から、アイソスタシーに関する図を図4と図5に示します。図4に示すように、ここでは、現象の波長に着目して、短波長と長波長を明瞭に区別していて、長波長ではアイソスタシーは、アセノスフェアに浮かぶリソスフェアという形で(図5(右))成立し、短波長ではアイソスタシーは、マントルに浮かぶ地殻という形(図5(左))になり、成立しているところもあるが、多くの場合短波長のアイソスタシーは成立していないと考えています。
そして、この原因について、「これは、地球の表面が固いプレートに覆われていて、短波長の凹凸を支えるが、長波長の凹凸に対してはプレートはしなうように変形するという補償がはたらくためである。」と述べています。なお、彼の言葉の使い方では、「補償」と「アイソスタシー」とは、同じということです。
図4 アセノスフェア・リソスフェアが、かかる重力・荷重の波長により、異なるふるまいをするモデル
(波長の違いを恐竜の大きさの違いで比喩的に表現している−−長波長:大きな恐竜、短波長:小さな恐竜)
図5 局所アイソスタシーと広域アイソスタシー
(局所アイソスタシーは、マントルの上に地殻が浮いているモデル
広域アイソスタシーは、アセノスフェアの上にリソスフェアが浮いているモデル)
2−4 アセノスフェアについて
瀬野(1995)は、リソスフェアとアセノスフェアの違いは、粘性率の違いで、リソスフェアでは粘性率が大きく、アセノスフェアでは粘性率が小さいと述べています。また、リソスフェアとアセノスフェアがある証拠として、
- 地震波の低速度層があること。
(図から判断して、低速度層としては、概ね100km-400kmを考えているようです)
- 海洋のリソスフェア内の地震の震源が、中央海嶺から離れるに従って、下限の位置が深くなっていること。
- 長波長の地形と重力の間にアイソスタシーが成立していること。
の3つをあげています。
この内、3番目についての、私の考えを述べるのがこの1文の目的になっていますので、最後まで読んでいただければ、これについての見解は明瞭なので、ここでは、こまかなことはなにも書きません。ただ、「液体」の上にのる物については、アイソスタシーが成立する可能性が多分にあるが、「固体の塑性体」の上にのる物については、おそらくアイソスタシーは成立しないだろうという意見だけ書いておきます。
1番目については、たとえば、Y.ゲガーン・V.パルシアウスカス(2008)が、岩石の弾性波速度が、岩質、密度、空隙率、岩石の微細構造、二次鉱物の存在に影響されと述べ、また、温度、圧力にも影響されるとしているように、弾性波速度に影響を与える要因は複雑多岐にわたっているのに、そのことを考慮しないで、これが、温度によるものであると決めつけている(私にはそのように思われる記述の仕方をしている)ことは、科学としてどうなのだろうかと思います。
2番目については、中央海嶺からの位置の離れぐあいが、岩石の年齢に比例するという海洋底拡大説に基づく推論なので、地学トピック7で述べた私の考えとは全く相いれません。私は、これは、単純に、中央海嶺下の熱源からの熱伝導距離の問題として扱えば理解できる現象だと思います。
「リソスフェア」については、私の考える「剛体地殻」とかなり近いところもあり、聞くべきところは多いにあると思いますが、「アセノスフェア」なるものは、多分存在していないであろうというのが私の考えです。
3 アイソスタシーは成立しているか?
アイソスタシーが成立しているかどうかという話は、多分相当に難しい話なのだろうと思います。なので、参考にした本に書いてあることを、おさらいすることで、この話の答えの見当をつけることにします。
3−1 対象の広さ、大きさ
「アイソスタシーは成立しているか?」という話は、あまり単純ではなくて、瀬野(1995)の考えているように、現象の大きさ別に分ける必要があります。大きな範囲と狭い範囲を分けて考えます。大きな範囲とは、大陸と大洋の間といった話で、狭い範囲とは、日本列島とか、さらに、その中の一部とかいったスケールのことです。
何の上に何が浮いているのかという話では、マントルの上に地殻が浮いているとするのが妥当のように思います。「アセノスフェア」なるものが本当にあるのかは、大いに疑問があると考えています。
3−2 大きな範囲でのアイソスタシー
A.カイユ(1970)の認めている、モホ面が大陸の山岳で深く、大洋底下で浅くなっていることや、間接的ながら、後述のようにスカンジナビアなどで、アイソスタシーによると思われる運動が認められることから、広い範囲の長期的なことについては、アイソスタシーは概ね成立していると考えてよいようです。
3−3 狭い範囲でのアイソスタシー
狭い範囲でのアイソスタシーが成立している状態は、長い波長の重力異常が大地形と対応するだけでなく、短い波長の重力異常が小地形と対応する状態と思われます。
「日本列島」のような、狭い範囲では、しばしば、ブーゲー異常図を用いて、地学上の諸事が検討されていますが (たとえば、萩原(1991))、 小地形と重力異常の関係は単純ではないので、狭い範囲では、アイソスタシーは成立していないことが多いといえるでしょう。
4 物の性質(物性)のおさらい
後の考察にそなえて、物の性質(物性)について、基本的なことを「おさらい」しておきます。
4−1 柔らかい塑性体(固体)と粘度の大きい液体の区別
柔らかい塑性体(固体)と、粘度の大きい液体の区別を簡単な実験で示します。次の写真をクリックすると、実験の詳細になりますので、クリックしてご覧ください。

物性についての簡易実験(1) 柔らかい塑性体(固体)と粘度の大きい液体
4−2 柔らかい塑性体(固体)と柔らかい弾性体(固体)の区別
柔らかい弾性体と、柔らかい塑性体の区別を簡単な実験で示します。次の写真をクリックすると、実験の詳細になりますので、クリックしてご覧ください。

物性についての簡易実験(2) 弾性と塑性
おさらいとして、本編の
1 島弧系区分と素材性状的にみた地殻
の中の
1−2−2 地形から推測される地殻の素材性状
に掲げた「表1−2 物体の力に対する挙動による分類」をここで改めて掲示します。参考にしてください。
表4 物体の力に対する挙動による分類 (もとの表番号:表1−2 )
4−3 歪み速度の問題
山口・西松(1967)は、岩石の力学圧縮試験では、普通、1秒当たり1〜10kgf/cm^2づつ、荷重を増していくぐらいの「荷重速度」であると述べています。また、「一般的には、荷重速度が大きくなるとYoung率は大きくなり、破壊強度も増大するといってよい。しかし、岩石の種類によっては、荷重速度の増加にともなってYoung率が低下するものもあり、破壊応力についても荷重速度が極端に小さくなると、むしろ破壊応力が増大すると述べている報告もある」と記述しています。
山口・西松(1967)は、極端に小さい荷重速度の場合クリープ現象がみられるようになると言っています。
やはり、山口・西松(1967)の中で、岩石の荷重速度を変化させた圧縮試験や引張試験で、圧縮強度や引っ張り強度が荷重強度の増大に伴って大きくなっている例を紹介しています(表5,表6)。
表5 荷重速度を変化させた圧縮試験結果
山口・西松(1967)より
表6 荷重速度を変化させた引張試験結果
山口・西松(1967)より
クリープは、やはり、山口・西松(1967)の説明では、「応力を長期間一定に保ったとき、時間の経過とともに歪みが増大する現象で、一般に、荷重を加えた瞬間に発生する「瞬間歪み」から、始めは、ひずみ速度が増大していく「1次クリープ」、次いで、ひずみ速度が一定の「2次クリープ」、次いで、再びひずみ速度が増りー大していく、「3次クリープ」になって、「3次クリープ」の終わりが、破壊になるということです。そして、砂岩のクリープを荷重の大きさを変化させた試験で、2次クリープのひずみ速度と、かけた荷重の関係を調べて、図7の関係が得られた例を紹介しています。
図6 砂岩の曲げクリープ試験で得られた、荷重の大きさによるたわみ曲線の変化
山口・西松(1967)より
図7 砂岩の曲げクリープ試験で得られた、ひずみ速度と破壊強度の関係
山口・西松(1967)より
(図の「たわみ速度」が「ひずみ速度」に相当し、「荷重」が「破壊強度」に相当する。
(「荷重」を%で表示しているのは、砂岩の板状の梁に、普通のひずみ速度で荷重をかけていって破壊した荷重を100%にしているため)
ここで、みてきたように、岩石には、一般には、ひずみ速度が大きくなると、破壊強度も大きくなる、逆にいうと、ひずみ速度が小さく、ゆっくりになると、破壊強度が小さくなる傾向があるということはいえそうです。また、クリープという特殊な現象が起きることもあります。「クリープ」は、塑性変形といえるので、短時間にかかる応力に対して剛体として振る舞う岩石が、非常に長時間のゆっくりしたかかり方をする応力に対して、塑性体として振る舞うということはあり得るといえるでしょう。
しかし、これらのことは、固体が液体に変化するといった話では、全然ありません。少なくとも私が見聞きした範囲内では、ある物体に力を加えたとき、力の加え方が急か緩やかかで、固体の性質のもの
(岩石)
が、液体の性質に変化したということを実験的、あるいは、理論的に証明したという話は全くありません。
5 アイソスタシーの証拠
5−1 グリーンランド
A.カイユ(1970)によれば、図8のように、グリーランドや南極の大きな氷床では、氷床の地形と基盤岩上面の地形とから、氷による重みに対してのアイソスタシーが成立していると考えられています。
図8 グリーンランドの氷床の高さと基盤岩上面の高さ
(A.カイユ(1970)より)
(氷床が高いところの基盤岩上面は、低くなっており、これは、氷の重みで基盤岩が押し下げられるアイソスタシーによると考えられています。図には、仮に氷が全部解けたら、基盤岩上面は、ここまで上昇するであろうという線が描かれています。)
5−2 スカンジナビア
西村 嘉助(1969)によれば、北欧のスウェーデン・フィンランド付近や、北アメリカの五大湖地方で、後氷期の氷床の衰退に伴う地殻変動(曲隆)がみられ、これはアイソスタティクなものであると考えられているということです。この理由は、
- 曲隆地域の外縁が最終氷期の氷蝕地域の限界と平行する。
- 等隆起線が同心円状で、その中心は他の証拠から氷床が最大とされている場所にある。
- 隆起の速さがほぼ同じ桁である。
- 負の重力異常がみられ、その値は氷床の中心に向かってましている。
などによると述べています。
図9 スカンジナビアのいろいろな時期の旧汀線の位置と高度(単位m)
(西村 嘉助(1969)より)
図10 氷床の衰退に伴う地殻変動(曲隆)の速さ
(西村 嘉助(1969)より)
5−3 アイソスタシーの証拠は地盤上昇運動
以上述べてきたように、つまるところ、アイソスタシーの重要な証拠の一つは、地盤上昇運動であるといって良いでしょう。氷床などの荷重の除荷に伴って、地盤上昇運動が起きているということです。したがって、アイソスタシーが成立するための条件としては、この運動を実現しうる条件であれば良いということになります。
もう一つの証拠は、重力について、釣り合いがとれていることです。が、ここでは、この点について深く追うことはしません。さらに、もう一つは、「アイソスタシー」という考えのきっかけになった、鉛直線の向きが理論値と実測値で異なる等の重力測定の話ですが、この話は、私には難し過ぎることなので、これについて何もいえません。
6 アイソスタシーから推定されるマントル物質の物性
6−1 除荷上昇実験
アイソスタシーが成立するための条件の一つは、「荷重の除荷に伴って、上昇運動が起きる」を実現しうる条件だと述べました。この条件を満たすであろう状態に近いものとして、次の3通りの状態を想定して、各々簡単な実験で状態を調べてみました。ここでは各実験について述べます。
- バネの上の板の上に物体が載っている
- 液体に浮いた板の上に物体が載っている
- スポンジの上に板を敷いたところの上に物体が載っている
6−1−1 バネによる変形復元実験
簡単な、バネによる載荷・除荷にともなう変形復元実験を行ってみました。次の写真をクリックすると、実験の詳細になります。クリックしてご覧ください。

写真2 バネによる載荷・除荷にともなう変形復元実験
6−1−2 浮力による変位復元実験
簡単な液上の浮体の浮力による変位復元実験を行ってみました。次の写真をクリックすると、実験の詳細になります。クリックしてご覧ください。

写真3 浮力による変位復元実験
6−1−3 スポンジによる変形復元実験
簡単な、スポンジによる載荷・除荷にともなう変形復元実験を行ってみました。次の写真をクリックすると、実験の詳細になります。クリックしてご覧ください。

写真4 スポンジによる載荷・除荷にともなう変形復元実験
6−2 マントル固体バネ説(マントル・スポンジ説)
結構長くなってしまった、この一文で言いたいことは、アイソスタシーを成立させるための条件は、マントルが弾性体であれば、固体であっても、いっこうに構わないでしょうということです。マントルが液体でなければ、アイソスタシーが成立しないということはないはずです。
確かに、この話は、地質学的な長時間での歪み速度での物の変形は一体どういうふうなのか?という、多分間違いなく、実験とか実証とか未来永劫できない話に、無理やりある結論を決めてしまうということなしに、何もいえないことではあるのですが。
「実験可能な、短時間について弾性体として振る舞う固体は、地質学的長時間についても、やはり、弾性体として振る舞う」という仮定のほうが、「実験可能な、短時間について弾性体として振る舞う固体は、地質学的長時間については、液体として振る舞う」という話より合理的と思うのですがどうでしょうか。
マントルが固体であるということは、地震波の研究で明らかです。
マントルの岩石の性質が、歪み速度が非常に小さいからといって、「液体」になるとは考えられないので、マントルは固体の弾性体であると考えられます。
マントルは重いので、定性的には、
マントルは重いスポンジ
と思えば良いのでしょう。身近には、重いものでできたスポンジは、まず見いだせないので、ちょつと、想像しがたい性質ではあるのですが...。
なお、瀬野(1995)は、アイソスタシーに関して、「アセノスフェア」なり、「マントル」なりが、「固体塑性体」の現象として引き起こしているのか、「液体」として引き起こしているのか、どちらともつかない、あいまいな記述をしています。「液体」ならば、アイソスタシーが成立することに問題はありませんが、地震波からの「固体」という結果とは矛盾します。「固体塑性体」ならば、おそらく地震波とは矛盾しませんが、塑性体では、応力と変位に比例関係はないので、「アイソスタシー」や「アイソスタシー的関係」はおそらく成立しないでしょう。
7 何の上に何が載っているかの推論
以下では、「マントルは固体で弾性体
(除荷で、ただちに位置復元しているわけではないので、ダンパー付きのバネと考えます)
である」ということで話を進めます。すると、当然、「何の上に何が浮いているか?」ではなく、「何の上に何が載っているか?」という問題意識になります。最初の何は、いままでの話から「固体、弾性体マントル」になります。そして、上に載っているものは当然「地殻」になりますが、この問題について、「地殻」を一つのものとして扱って良いかどうかは、少し考えてみることが必要と思われます。
地震波による区分では、地殻は、上部の厚い大陸地殻の主体を占める「シアル層」と、大陸地殻下部と、薄い海洋地殻のほぼ全体からなる「シマ層」に区分されます。だから、一つには、この問題について、シアル層とシマ層を一体として扱って良いかという検討が必要です。もう一つは、地学トピック9で述べた、地殻の上部には、どうも「地震殻」というべき、特別に固い部分がありそうなので、別の考えとして、「地殻」を「地震殻」とそれ以外に区分したほうが良いのではということがあります。
シアル層とシマ層では、少しではありますが、密度の相違があり、アイソスタシーの検討を密度を用いて行う場合には、両者を当然区別すべきということになります。しかし、物性や力学挙動の境としては、この境(コンラッド面)は、相対的に重要度が低いように思います。「地震殻」とそれ以外への区分の方がより重要という気がします。岩石も熱くなれば、塑性的な振る舞いをするようになります。「地震殻」とその下の部分との境は、おそらく、この岩石が熱くなって塑性的に性質変化する境であろうと推測されます。この推測が正しければ、この境より下は固体、塑性体で、上は固体、剛体ということになります。
この推測と、周藤 賢治・牛来(1997)の掲載図や記述を参考にして、1つの図にすると、図11のようになります。
図11 マントル・スポンジ(弾性体)上に、地殻が載っているモデル
(大陸と大洋の地殻−マントル最上部の層区分モデル)
こういう図を作ってみると、大洋地域では、地震殻の下部は確実にマントルの中に入ることがわかります。この部分を地震殻内マントルと呼ぶことにすると、多分、地震殻内マントルの部分だけは、「剛体」になっているという推測をしないと、「剛体−塑性体地震殻モデル」は成立しなくなるので、この図では、この部分を、「剛体」としました。
なお、ここでは「地震殻」の深度を7km−26kmではなく、7km−27kmにしてあります。「地震殻」の正確な深度は、多年度の多数のデータから決定すべきでしょうが、そのような処理は、多分、当分できないでしょう。地学トピック9で、26kmないし、27kmといった内の、27kmのほうを採用しました。
8 マントルのバネとしての強さ
マントルが「バネ」だとすると、バネに載る重りの重さと変位量との関係から、地殻の重さに対する沈み込み具合を検討できるはずです。様々な不確かな仮定を設けた上での話ですが、ここでは、これにチャレンジしてみようと思います。
・ マントル・バネの強さの計算
次をクリックして、計算の詳細をご覧ください。
マントル・バネのヤング率の計算
・ マントル・バネの強さ
ヤング率の値は、バネの長さ約200kmのモデルでは、概ね
E = 5.8 × 10^9 (Pa) = 5.8 (GPa)
程度の値という結果になりました。
求めたEを、理科年表(平成21年版)の金属などのヤング率の値と比較すると、
- 鉛 ---------- 1.61×10^10Pa -------------- の 約 36%
- 鉄(軟)------- 21.14×10^10Pa -------------- の 約 1/36
- ポリスチレン----- 0.27 - 0.42×10^10Pa ------の約 1.4倍− 2.2倍
- ポリエチレン----- 0.04-0.13×10^10Pa ------ の約 4.5倍− 14.5倍
程度です。
また、Y.ゲガーン・V.パルシアウスカス(2008)に掲載されている岩石の弾性定数の代表値と比較すると、
- 玄武岩(Pigash) ------ 6.24×10^10Pa --------- の約 1/11
- 花崗岩(Barre) ------- 3.04×10^10Pa --------- の約 1/5
- 砂岩(Cherokee) ----- 3.99×10^10Pa ---------- の約 1/7
です。
ヤング率の値は、バネの長さ約400kmのモデルでは、概ね
E = 1.17 × 10^10 (Pa) = 11.7 (GPa)
程度の値という結果になりました。
このEを、理科年表(平成21年版)の金属などのヤング率の値と比較すると、
- 鉛 ---------- 1.61×10^10Pa -------------- の 約 73%
- 鉄(軟)------- 21.14×10^10Pa -------------- の 約 1/18
- ポリスチレン----- 0.27 - 0.42×10^10Pa ------の約 2.8倍− 4.3倍
- ポリエチレン----- 0.04-0.13×10^10Pa ------ の約 9.0倍− 29倍
程度です。
また、Y.ゲガーン・V.パルシアウスカス(2008)に掲載されている岩石の弾性定数の代表値と比較すると、
- 玄武岩(Pigash) ------ 6.24×10^10Pa --------- の約 1/5
- 花崗岩(Barre) ------- 3.04×10^10Pa --------- の約 38%
- 砂岩(Cherokee) ----- 3.99×10^10Pa ---------- の約 29%
です。
この計算結果は、マントルの最上部の岩石は、地表の岩石より、かなり重いのに、ずっと軟らかいものであることを示唆しているように思うのですが、いかがでしょうか。
「スポンジ」という言葉を使って、比喩的に言うなら
マントル最上部は、重くて軟らかいスポンジ
なのではないでしょうか。
9 地殻などの構造異方性・運動異方性
簡単な、構造異方性・運動異方性の実験を行ってみました。次の写真をクリックすると、実験の詳細になります。クリックしてご覧ください。

構造異方性・運動異方性についての簡易実験
実験より、「アイソスタシー」が成立するという鉛直方向の「液体的ないし、塑性体的な運動」
(+ 一部、弾性体的な運動[地震殻内マントルの])
と、地震殻が水平に押し合っているという水平方向の「剛体的な運動」が、ある種の条件が整いさえすれば、全く矛盾なく両立することがわかります。
10 まとめ
- 19世紀に、重力測定結果の解釈からアイソスタシーのプラット説、エアリー説が生まれた。
- エアリー説は、密度小のものが、密度の大きいものの上に浮かんでいて、山岳の下で密度の小さいものの根が深くなっているというものである。
- アイソスタシーを考えるとき、何の上に何が浮いているかの主なモデルは、次の3つである。
- シマ層の上ににシアル層が浮いているモデル。
- マントルの上に地殻が浮いているモデル。
- アセノスフェアの上にリソスフェアが浮いているモデル。
- 「アセノスフェア」があるという根拠は薄弱で疑わしく、おそらく「アセノスフェア」なるものは存在しない。
- アイソスタシーは、マントルの上に地殻が浮いているモデルで考えるのが妥当と思われる。
- 「アイソスタシーは成立しているか?」は、対象の広さ、大きさ別に考える必要があって、
- 大きな範囲でのアイソスタシーは概ね成立している
- 狭い範囲でのアイソスタシーは多くの場合成立しない
といえそうである。
- 「物の性質(物性)のおさらい」として、以下の実験・文献調べを示した。
- 柔らかい塑性体(固体)と粘度の大きい液体の区別の実験。
- 柔らかい塑性体(固体)と柔らかい弾性体(固体)の区別の実験。
- 岩石試験で、「歪み速度の変化によって引き起こされる現象」の文献調べ。
- アイソスタシーの証拠として、次の各箇所の状態があげられている。
- グリーランドや南極の大氷床の氷床地形・基盤岩上面の状況。
- スカンジナビア半島付近や、五大湖地方の後氷期の氷床の衰退に伴う曲隆。
- アイソスタシーの重要な証拠の一つは、
(氷床の荷重の減少に伴う)
地盤上昇運動であるといって良い。
- 「荷重の除荷に伴って、上昇運動が起きる」であろう3通りの状態の実験を行った。
- バネによる変形復元実験
- 浮力による変位復元実験
- スポンジによる変形復元実験
- アイソスタシーを成立させるための条件は、マントルが弾性体であれば、固体であっても構わないと考える。マントルが液体であるということは、アイソスタシーの必須条件ではない。
- マントルは、地震波の研究から固体であることは明らかである。
- マントルの岩石の性質が、歪み速度が非常に小さいからといって、「液体」になるとは考えられないので、マントルは固体の弾性体であると考えられる。
- マントルは重いので、定性的には、
マントルは重いスポンジ
と思えば良い。
- 図11に、 マントル・スポンジ(弾性体)上に、地殻が載っているモデルを示した。
- マントル・バネのヤング率の仮定計算を行い、
- 約200kmのバネのモデル ----- E = 5.8 × 10^9 (Pa) = 5.8 (GPa)
- 約400kmのバネのモデル ----- E = 1.17 × 10^10 (Pa) = 11.7 (GPa)
程度の値という結果を得た。
- 比喩的にいって、
マントル最上部は、重くて軟らかいスポンジ
の可能性がある。
- 構造異方性・運動異方性についての簡易実験を行って、運動方向ごとに、地殻などの振る舞い方が全く異なるものになり得ることを示した。
引用文献・参考文献
1 佐藤 捨三(1967) 著 1967 改訂地学汎論
地球社 pp. 291-293
2 藤本 治義(ふじもと はるよし)・柴田 秀賢(しばた ひでかた) 1966 地質学ハンドブック
朝倉書店 pp.11-12
3 山下 昇(やました のぼる) 1967 新版地球科学序説
築地書館 pp.29-31
4 シャンド 著 中山 一三(なかやま いちぞう) 訳 1942 創元科学叢書 地球と地質学
創元社 pp168-174
5 A.カイユ 著 竹内 均 訳 1970 世界大学選書 002 地球の解剖
平凡社 pp.86-95
6 瀬野 徹三(せの てつぞう) 著 1995 プレートテクトニクスの基礎
朝倉書店 pp.5-9, pp.67-69
7 Y.ゲガーン・V.パルシアウスカス 著
西沢 修(にしざわ おさむ)・金川 久一(かながわ きゅういち) 訳 2008 岩石物性入門
シュプリンガー・ジャパン p95, pp179-189
8 萩原 尊禮(はぎわら たかひろ) 著 1991 日本列島の地震 −地震工学と地震地体構造−
鹿島出版会 pp.90-95
9 山口 梅太郎(やまぐち うめたろう)・西松 裕一(にしまつ ゆういち) 著 1967 岩石力学入門
東京大学出版 pp.120-121, pp.130-131, pp.175-180
10 西村 嘉助 編 1969 朝倉地理学講座5 自然地理学U
朝倉書店 pp.45-47 (この部分の著者は 太田 陽子)
11 周藤 賢治(しゅうとう けんじ)・牛来 正夫(ごらい まさお) 著 1997 地殻・マントル構成物質
共立出版 pp.248-282
12 東京天文台 編 1988 理科年表 昭和64年版
丸善 p.地139 (757)
13 国立天文台 編 2008 理科年表 平成21年版(机上版)
丸善 p.物29 (379)