マントル・バネのヤング率の計算
8−1 検討用の仮定(200kmモデル)
8−1−1 「バネ」として働くマントルの厚さ
「バネ」として働くマントルの厚さは、上端をモホ面とし、下底は、おおむね低速度層の下端付近の深度である200kmとします。
8−1−2 地殻構成モデル
地殻構成モデルは、A.大洋、B.大陸、そして、「バネ」に何も載っていない状態に対応する全く仮想的な、地殻なし状態をoriginalとして、O.無地殻とした計三通りのモデルとします。
- A. 大洋モデル ---- 大洋の水深を6km、その下はすぐシマ層で、シマ層の厚さは6km (モホ面の深度12km)とします。
- B. 大陸モデル ---- 大陸平原をイメージして、高さを0kmとし、地表よりシアル層が25km、シマ層が25km (地殻の合計厚50km)とします。
- O. 無地殻モデル ---- 地殻はなく、ある深度まで空で、その深度から深度200kmまでが、「バネ」として働くマントルとします。
モデルを図Tに示します。また、無地殻モデル での「バネ」の長さ(層の厚み)をXo (km)で表すことにします。
図T マントルのバネとしての強さ検討用のモデル
8−1−3 モデルごとの「バネ」の長さ
- a. 大洋モデル ---- Xa = 200km - 12km = 188km
- b. 大陸モデル ---- Xb = 200km - 50km = 150km
- o. 無地殻モデル -- Xo (km)
8−1−4 各層の密度ρの仮定
まず、弾性波速度Vpを仮定し、種々の岩石の実験で得られたVp−ρ関係からρを求めることにします。
- シアル層 ----------- 6.0km/s
- シマ層 ------------- 6.5km/s
- (参考) マントル ---- 7.9km/s
「種々の岩石の実験で得られたVp−ρ関係」は、理科年表昭和64年版に掲載されていた岩石の物性の表からVpとρを引いて、表計算ソフトの回帰分析を用いて次のVp−ρ関係を得ました(図U)。
図U 弾性波速度Vpと岩石の密度ρの関係
(理科年表昭和64年版のデータより作成)
この関係は式で表すと
・Vp−ρ関係式
ρ(g/cm^3) = 0.3232 Vp(km/s) + 0.700
です。この式で各層の密度ρを計算すると、
- シアル層 ---- 2.639 g/cm^3 = 2.639 t/m^3
- シマ層 ------ 2.801 g/cm^3 = 2.801 t/m^3
- (参考) マントル ---- 3.253 g/cm^3 = 3.253 t/m^3
になります。
8−1−5 「バネ」の線形性の仮定
「バネ」のヤング率をE、かかる応力をσ、対応する歪みをεとして、
σ=E・ε
が成り立つものとします。この関係を図Vに示します。
図V 弾性体の応力(σ)と歪み(ε)とヤング率(E)の関係
8−2 「バネ」のヤング率の計算
8−2−1 大洋のM面にかかる重力(σa)と大陸のM面にかかる重力(σb) の計算
・大洋のM面にかかる重力(σa)の計算
- 海水 1平方メートルの柱の荷重
6 km × 1.000 tf/m^3 = 6, 000 tf/m^2
- シマ層1平方メートルの柱の荷重
6 km × 2.801 tf/m^3 = 16, 806 tf/m^2
- 1平方メートルの柱の荷重の合計
6, 000 tf/m^2 + 16, 806 tf/m^2 = 22, 806 tf/m^2
,
大洋のM面にかかる重力は、単位をパスカル(Pa)に変換すると、
1 tf/m^2 = 9.80×10^3 Pa
なので、
σa = 22, 806 tf/m^2 × 9.80×10^3 = 2.235 × 10^8 Pa
になります。
・大陸のM面にかかる重力(σb)の計算
- シアル層1平方メートルの柱の荷重
15 km × 2.639 tf/m^3 = 39, 585 tf/m^2
- シマ層1平方メートルの柱の荷重
35 km × 2.801 tf/m^3 = 98, 035 tf/m^2
- 1平方メートルの柱の荷重の合計
39, 585 tf/m^2 + 98, 035 tf/m^2 = 137, 620 tf/m^2
大陸のM面にかかる重力は、
σb = 137, 620 tf/m^2 × 9.80×10^3 = 1.3487 × 10^9 Pa
になります。
8−2−2 「バネ」の長さ Xo の計算
「バネ」の線形性の仮定より、
σa = E・εa ------- (1)式
σb = E・εb ------- (2)式
です。各々の歪みは
εa = ( Xo - Xa )/Xo = ( Xo km - 150 km)/ Xo km ----(3)式
εb = ( Xo - Xb )/Xo = ( Xo km - 188 km)/ Xo km ----(4)式
(1)式より E = σa/εa ---- (5)式
(2)式より E = σb/εb ---- (6)式
なので、
(σa/εa ) = (σb/εb ) ------ (7)式
という関係になります。
(7)式を変形すると
σa・εb − σb・εa = 0 -------(8)式
と書けます。(8)式の εa と εb に (3)式、(4)式を代入して、Xoを求める式として整理すると、
Xo = (σa・Xb − σb・Xa)/(σa − σb) ------(9)式
になります。
(9)式で Xo を計算すると
σa − σb = 2.235 × 10^8 Pa − 1.3487×10^9Pa = - 1.1252×10^9 Pa
σa・Xb = 2.235×10^8 Pa× 150 km = 3.3525 × 10^10 Pa・km
σb・Xa = 1.3487×10^9 Pa × 188 km = 2.53556 × 10^11 Pa・km
σa・Xb − σb・Xa = 3.3525 × 10^10 Pa・km − 2.53556 × 10^11 Pa・km
= - 2.2003 × 10^11 Pa・km
なので、 Xo は、
Xo = (- 2.2003 × 10^11 Pa・km)/(- 1.1252×10^9 Pa)
= 195.54 km
になります。これは、「バネ」に何も載っていないときの「バネ」の長さです。
8−2−3 歪みの計算
(3)式と(10)式より歪みは、
εa = ( 195.54 km - 188 km)/ 195.54 km = 0.0386 ----(11)式
(4)式と(10)式より
εb = ( 195.54 km - 150 km)/ 195.54 km = 0.2329 ----(12)式
です。
8−2−4 ヤング率の計算
(5)式と(11)式より
E = σa/εa = (2.235 × 10^8 Pa)/0.0386 = 5.79 × 10^9 Pa ---- (13)式
(6)式と(12)式より
E = σb/εb = (1.3487 × 10^9 Pa)/02329 = 5.79 × 10^9 (Pa) -----(14)式
となり、200kmモデルでは、概ね
E = 5.8 × 10^9 Pa = 5.8 GPa
程度の値です。
8−3 別の仮定での「バネ」のヤング率の計算(400kmモデル)
以上の計算では、深度200kmまでのバネを仮定しましたが、この仮定に充分な根拠があるわけではありません。そこで、バネの長さを約2倍の深度400kmまでの仮定での計算も試みてみます。
地殻の部分の仮定は変えないで、変わったところだけ計算していきます。
8−3−1 バネの長さ
- a. 大洋モデル ---- Xa = 400km - 12km = 388km
- b. 大陸モデル ---- Xb = 400km - 50km = 350km
- o. 無地殻モデル -- Xo (km)
8−3−2 「バネ」の長さ Xo の計算
σa − σb = - 1.1252×10^9 Pa
は変わりません。
σa・Xb = 2.235×10^8 Pa× 350 km = 7.8225 × 10^10 Pa・km
σb・Xa = 1.3487×10^9 Pa × 388 km = 5.2330 × 10^11 Pa・km
σa・Xb − σb・Xa = 7.8225 × 10^10 Pa・km − 5.2330 × 10^11 Pa・km
= - 4.4508 × 10^11 Pa・km
なので、 Xo は、
Xo = (- 4.4508 × 10^11 Pa・km)/(- 1.1252×10^9 Pa)
= 395.56 km
になります。
8−3−3 歪みの計算
εa = ( 395.56 km - 388 km)/ 195.56 km = 0.01911
εb = ( 395.56 km - 350 km)/ 195.56 km = 0.11518
です。
8−3−4 ヤング率の計算
E = (2.235 × 10^8 Pa)/0.01911 = 1.17 × 10^10 Pa
E = (1.3487 × 10^9 Pa)/0.11518 = 1.17 × 10^10 (Pa)
となり、400kmモデルでは、概ね
E = 1.17 × 10^10 Pa = 11.7 GPa
程度の値です。