3−2.地形の「火山列」の考察

3−2−1.第四紀火山の火山列(地形の「火山列」)は何を表しているのか

 これまで見てきたように、確かに第四紀火山の多くは「火山列」をなして並んでいることが多いのですが、では、この火山の列は一体何を表しているのでしょうか。火山は地下深くのマグマが火山の基盤中の割れ目などを伝って上昇し、やがて噴火し(多くの場合は噴火を何度も繰り返し)、噴出物が「山」をなして火山になると考えられています。すると、火山の基盤中の断層などが「火山列」の元である可能性はきわめて大きいでしょう。

火山体と火山の基盤のイメージ図


 ここでは、初めに中部地方西部の第四紀火山の火山列と活断層との関係について詳しく検討し、次いで2008年6月14日に発生した「岩手・宮城内陸地震」の震源と火山列との関係について検討してみます。 詳しい検討で、活断層や震源断層と火山列の関連性が深いことが確認できれば、「火山の基盤の中の断裂(断層を含む)が火山列の原因である」という説は確実度を増すことになります。


3−2−2.中部地方西部の第四紀火山の火山列と活断層の平面関係

中部地方西部の第四紀火山の火山列と活断層の分布を合わせた図をつくってみました。

中部地方西部の第四紀火山の火山列と活断層の分布図


 この図は、これまでの火山位置、火山列図に活断層研究会1991の付図Tの100万分の1 日本活断層図の断層を確実度の高いものも低いものも区別せず全部トレースして合成したものです。

 概観すると、活断層が相対的に疎なところに火山・火山列が密に分布しているようにみえます。火山列の向きで顕著な南北性の活断層はこの地域にはありませんが、その他の北東−南西、北西−南東などの向きのものは活断層、火山列ともにみとめられ、互いに調和的に分布しているようにみえます。

より詳しい検討を行う準備として、断裂の形成環境と断裂系の新旧判別方法について、少し考えてみることにします。


3−2−3..断裂系形成時の環境と断裂の向きについて

 ここでは、基盤の中の断層や節理その他の割れ目をまとめて「断裂」と呼び、これが特定の向きに並んでいるなど、一定の系統性が認められる複数の断裂を「断裂系」と呼ぶことにします。

断裂の代表である断層について、典型的な型ごとに形成環境をみてみます。一般には、正断層、逆断層、横ずれ断層の3つについて述べられることが多いのですが、ここでは、これに「不規則な破断」を付け加えたいと思います。

断裂の型ごとの力の向き・相対変位


 「断層」は、これに沿って、層位置などの相対運動があることを重視した概念です。正断層、逆断層の判定には、断層をはさんで同一層準にある層の層位置の相対変位を用います。横ずれ断層の場合は層位置の相対変位のかわりに、尾根筋・谷筋の系統的な相対変位などの地形を多用します。
 一方、「破断」は破断面はありますが、これに沿う層の位置の相対変化はありません。「節理」概念に近いものです。ただし、層を構成する物体の変位はあります。構成物質の変位がなく、割れ目だけが形成される「節理」とは異なったものです。ここでは、「断層系」より「断裂系」という言葉を多用しますが、「破断」運動も重要な力学的意味をもっているという判断で、従来の断層運動にこれを加えた「断裂(形成)運動」を考えましょうということです。

 逆断層も横ずれ断層も圧縮力のもとで形成されますが、どういうときに逆断層になり、どういうときに横ずれ断層になるのか説明しているのを不勉強な私は見たことがありません。図から断層運動の基盤の動きが大きく関わっていることが容易に想像されます。正断層運動・逆断層運動のときは、基盤もこれらに同調して上または下に変位しているはずです。でないと幾何学的に断層運動が成立しません。一方、破断・横ずれ断層のとき、基盤には一切上下変位はありません。

基盤から表面までの全体に、断層に沿う上下動があるとき正断層、または逆断層になり、基盤には関わりなく、表面付近の地塊のみが水平動するとき破断、または横ずれ断層になると結論して良いでしょう。

 さて、断裂の形成時の力の向きと断裂の向きは一般に図に示したようであると考えられています。「断層」については、たいていの本にこのことは書かれているので問題ないでしょう。「破断」について、「地学」分野で考えられていることはほとんどないようです。ある意味、「独断と偏見」になってしまいますが、日常生活であまり固くないものを引きちぎったとき、たとうば、煎餅やクッキーやチーズを引きちぎったとき、その引きちぎられた面の形状は不規則なギザギザになることが多いと思います。このような経験から、「地盤」あるいは「地塊」も破断するときは、不規則なギザギザの面で分離すると考えます。そして、大きくは、引っ張りの方向に鉛直な平面に沿って分離すると考えます。


3−2−4..断裂系形成の形成順序の判定について

 地学では、層と層の切り合いの関係に着目して、新旧判定することが良くあります。下からA層、B層、C 層と順序良く重なっている地層群を、下位の層の層境に無関係の曲面で切って、その上にD層が堆積していれば、「地層累重の法則」からも切り合いの関係からも、C層よりD層の方が新しいといえるわけです。
次図(1)では、B層C層境界を不整合面が切っていて、この上にD層が堆積しているので、D層は確実にB層・C層より新しいといえます。

地層の新旧判定と断裂の新旧判定


 ところが、不整合面の下位が1層、上位が2層で、1層中に断裂a、断裂b、断裂cがあり、2層中に断裂dがある(2)−1の場合、断裂a〜断裂cより断裂dのほうが新しいといいきることはできません。 その蓋然性は高いのですが、断裂dが先に形成されて、あとから断裂a〜断裂cが形成されたという可能性も否定できません。同一層内に断裂aから断裂eまでが切り合い関係で(2)−2のような状態にあるとき、古い断裂を新しい断裂が切っていると解釈しがちですが、断裂形成のとき、互いに共役関係にある断裂が見かけ上切り合い関係になる可能性もあるので、断裂の切り合い関係での断裂の新旧判定は一般に困難であるといわざるを得ません。

 しかし、狭い範囲内で同一方向の(できれば変位のセンスも同一の)断裂群があれば、これは同じ力によって形成された蓋然性がきわめて高く、ちょうど共役関係の向きにも断裂群があれば、1つの力によって、2方向の断裂群ができた蓋然性は高いといえます。断裂の向きやセンスやときには切り合い関係によって、断裂系の形成順序を推定することは、それが、確実な事実であるということはできませんが、そうであった可能性が結構あるという、そういう推測は可能で、かつ、一定の意義のあることであると考えます。
たとえ話でいえば、正答率のやや低い天気予報にも一定の意義があるという考えです。

3−2−5.中部地方西部の.断裂系の解釈

 以下に述べることは、確実に事実であるとはいえませんが、そうであった可能性も充分にあるという性質の推論です。推論のやや脆弱な根拠は次のようです。

中部地方西部の第四紀火山の火山列と活断層を一体の断裂系として、断裂系区分を次図のように解釈しました。

中部地方西部の第四紀火山の火山列と活断層の解釈図


 中央構造線とこれに平行な断裂系は、系統的に糸魚川・静岡線に切られているので、前者が後者より古い蓋然性が高いといえます。

 糸魚川・静岡線と敦賀・桑名線は大きな構造線と判断され、跡津川系の断裂などより古いと考えます。福井平野東縁断層帯、根尾谷断層の一部、御母衣断層帯、阿寺断層帯、境峠断層などは、糸魚川・静岡線、敦賀・桑名線と平行な破断による同一断裂系と考えました。

力のかかった向き、順序をなるべく単純になるようにして、断裂系・火山形成過程を以下のように推定しました。

3−2−6.中部地方西部の活断層と火山列の形成過程の推測


第1段階  中央構造線系の断裂系の形成


(古第三紀以前?)

第2段階 糸魚川・静岡線、敦賀・桑名線などの断裂系の形成


(古第三紀?)
「破断」の原因となった引っ張り力は、断裂系の向きから、北東−南西方向に働いたと考えられます。

第3段階 森本・富樫断層帯などの断裂系の形成


(新第三紀?)

第4段階 跡津川断層帯などの断裂系の形成


(新第三紀?)

第5段階 南北性の火山列の元の断裂系の形成


(第四紀?)

第6段階 断裂系の完成


(第四紀)

第7段階 火山の噴火


(第四紀)


時代の推定にも、さしたる根拠があるわけではありませんが、一応以下のようなことを考えました。


 断裂の形成順序については、歯切れの悪いことを述べてきましたが、活断層の方向と火山列の方向が見事に調和していて、火山列は断裂系の一部という判断をして良いと私は考えますが、皆様はどう判断されますでしょうか。

3−2−7.2008年岩手・宮城内陸地震と第四紀火山の火山列の関係

 2008年6月14日に、「2008年岩手・宮城内陸地震」が発生し、多大な被害を及ぼしたことは記憶にあたらしいことです。新聞やテレビの報道では、この地震は、北上低地西縁断層帯に並行する未知の南北性の活断層の運動によるものであろうと推定されているようです。
 いままで、述べてきたように「火山列」と活断層に密接な関係があると考えているので、この地震の震源(震央)を仮に「火山中心」とみなして、これと、他の火山の中心をつなぐ火山列を推定できるのではないかということを思いつきました。(火山列の拡大解釈が、いささかひどいと非難されそうですが。)

 地震震源を火山中心とみたてた火山列と活断層、各火山の位置を合わせて次の図を作成しました。



2008年岩手・宮城内陸地震震源と第四紀火山の位置関係図



 「東北地方とその周辺」の中では、月山や肘折カルデラまでの距離が少しあったので、「火山列」とは認定しなかったのですが、震源−栗駒山−鬼首カルデラ−向町カルデラ−肘折カルデラ−月山の列が、ほぼ一直線上にならびます。計算で妥当と思われる直線を図では紫色の線で示しました。これは、ここに、北東−南西方向の断裂が伏在していることを示唆しています。

 一方、この付近には、北西−南東方向の小比内山・鳴子火山列を認定しましたが、焼石岳と震源を直線で結ぶと、これに近い北北西−南南東の向きになります。

 小比内山−鳴子火山列の位置にも伏在断裂があり、焼石岳−震源の位置にも伏在断裂があり、これらの北西−南東ないし北北西−南南東の断裂系と震源−月山断裂系が共役関係にあるとすると、この共役系の圧縮軸は東西方向ないし、東南東−西北西方向になります。


 気象庁のホームページの地震資料の中に(第4報の中)に、次に示すこの地震の発震機構の図がのっています。

2008年岩手・宮城内陸地震の発震機構


(気象庁ホームページより)

 地震の発震機構の解析では、西北西−東南東の圧縮力のもとで、北北東−南南西方向の逆断層運動が起こったと推定しているわけです。

 この地域には、西北西−東南東の圧縮力が働いており、これが、ある場合には、北西−南東(ないし北北西−南南東)と北東−南東の共役断裂系を形成させ、この断裂に沿って、火山を噴出させ、ある場合には、北北東−南南西の逆断層となる地震断層(活断層)を生じさせているのだという解釈が成立すると考えます。

 水平断層的な運動(共役断裂系)になるのか、逆断層運動になるのかは、運動に関わる地盤の深さによるであろうということは、3−2−4で述べた通りです。