1 島弧系区分と素材性状的にみた地殻


1−1 「島弧系」の区分


1−1−1 「島弧系」の区分−概略案

 日本列島は島弧であるといわれます。上田誠也著「新しい地球観」(岩波新書)(文献1)では、東日本弧系(千島弧・東北日本弧)、西南日本弧系(西南日本弧・琉球弧)という区分をしています。しかし、1つには、東北日本と西南日本の古地磁気の方位の研究で、西南日本は今から1500万年前頃に大きく回転(西南日本は約54度時計回り)し、東北日本は2100万年前頃から1100万年前頃までに、かなり回転(東北日本は約47度反時計回り)したと考えられており、このことから回転前を復元すると、東北日本と西南日本は、ほぼ直線状になる(ということ(文献2)。2つ目には、日本列島の地質図(文献3)をみると、やはり、西南日本と東北日本は、もともと「直線的な一本もの」であったものが、中部地方・関東地方で大きく折り曲げられたと見なされる構造が顕著にみられること。主にこの2つのことから、東北日本と西南日本を分けてしまう区分より、次図のような区分のほうが、より実態にあっているのではないかと考えています。

 なお、以後日本列島の地質分布について、形態的に大まかな説明をしているところは、いちいち出典を明示しませんが、日本列島の地質図(文献3)をみて述べています。

図1−1 島弧系区分の海陸分布からの概略解釈図

 もともと「直線的な一本もの」であったものが、中部地方・関東地方で大きく折り曲げられたと見なされる構造が顕著にみられるとは、次のようなことです。

 1つは、四国から紀伊半島を経由して渥美半島付近の東海地方へほぼ真っ直ぐ延びてきた、いわゆる西南日本外帯の帯状構造が、愛知県新城付近から大きく曲がって、長野県岡谷付近で糸魚川・静岡線で切られている状態になっていることです。太い帯が全体に大きく折り曲げられれば、その内部の細い帯も当然大きく折れ曲がります。

 これは、フォツサマグナ全体を一つの大きな剪断帯(より断層的な見方では破砕帯)とみなして、新城付近から、岡谷付近の異常な曲がりを剪断帯の運動に伴うものと解釈してしまいがちですが、帯状構造は糸魚川・静岡線で系統的に切られているので、帯状構造の形成が糸魚川・静岡線の形成より前だったというのは合理的な推定ですが、帯が曲がった時期は、糸魚川・静岡線の形成前の可能性も、その後の可能性もどちらもあります。私は糸魚川・静岡線について無知なので、この構造線がいつ出来たか知りませんが、曲がりの時期については、古地磁気での変形の時期と合致すると考えるのが自然なので、帯状構造が曲がったのは概ね今から1500万年前頃と考えて良いでしょう。

 

 もう一つは、中国地方の山陰から山陽にかけての「準帯状構造」と東北地方の日本海側から太平洋側にかけての「準帯状構造」がほぼ類似していることです。西南日本内帯でも外帯ほど顕著ではありませんが、東西に細長く延びる構造が見られます。中国山地の主体は中・古生界の酸性深成岩体の集合体ですが、山陰側には、新生代の地層もかなり分布していて、その南限付近に東西に「大山火山帯」の火山が分布しています。一方、東北地方では、東側の太平洋側に北上山地と阿武隈山地の中・古生界の地塊があって、北上低地や、福島のいわゆる中通の低地(郡山盆地−福島盆地)をはさんで、東北中央の脊梁山地を形成する「道西・東北中央火山帯」が南北に伸びています。この火山帯付近より西側(日本海側)は、朝日山地などの一部を除いて、大部分が新生代の地層からなります。

 北上山地西縁、阿武隈山地西縁がおそらく断層であり、その西側に低地帯があるというところは、山陰の中・古生界と新生界の境界と細かな状態の相違はありますが、大局的にみて、太平洋側に中・古生界が帯状に分布し、日本海側には新生界が並行して帯状に分布し、かつ、その新生界の境界近くに火山が帯状に分布するという共通構造があります。この帯状構造は西南日本外帯の帯状構造ほどは幅や向きがきれいに揃っているわけではないので、あまり省みられることがないようには思われますが、しっかりとあり、西南日本と東北日本の関係上はとても重要なので、ここでは、「準帯状構造」という表現を用いました。

 もともと「直線的な一本もの」であったものが、中部地方・関東地方で大きく折り曲げられたと見なされる構造が顕著にみられることのほか、このような平面的な形状にも多少は関わりますが、北海道まで含めた日本列島主弧が一連であると考える理由には、北海道の地質の状況と北海道と東北、北海道と四国の地質の比較があります。これについては、島弧の形状を海底地形を重視して考える必要があるので、先にそれについて述べたあとで述べます。

1−1−2 「島弧系」の区分−詳細案

 海底地形を考慮することが重要なので、さらに、海底地形(図1−2)などを参考にもう少し詳しい区分をしてみました。図1−2の海底地形図は、海陸の分布よりも、およその大陸棚深度200mのほうを強調した表現で海底地形を示したものです。また、およそ6000m程度までの大洋底とそれ以深の海溝部分とがはっきり区別できるようにという意図のもとで作成してあります。この図は、日本の活断層図(文献4)の地図を利用して、新たに作成したものです。


図1−2 海底地形図


 図1−2をもとに、海底地形を考慮した島弧系の区分図は、図1−3のようです。


図1−3 島弧系区分の詳細解釈図(海底地形を考慮した詳細区分)



1−1−3 本州主弧と伊豆・小笠原弧の境界

 伊豆・小笠原弧と本州主弧の境界は一般に考えられている駿河湾の駿河トラフと相模湾の相模トラフを結んだ線で、陸上では、富士宮市から、ほぼ、富士宮道路の下を通って、精進湖から山中湖の富士五湖の北岸を結んだ線(=御坂山地の南限)、静岡県の駿河小山付近から、丹沢山地の南部の神縄断層、酒匂平野北東縁(=大磯丘陵西南縁)の大井・松田断層の線と考えて良いと思います。これをここでは、「駿河トラフ・相模トラフ線」といっておきます。




1−1−4 本州主弧と九州・琉球弧の境界

 九州と沖縄の地形・地質はきれいに連動していますが、九州と四国の帯状構造は、帯の中身はほぼ連続するものの、向きは豊後水道をはさんで、明らかに相違しています。あまり強調されることはないのですが、豊後水道付近から西側の九州・(四国西端)地域と東側の中国・(西端を除く)四国地域では、地震の震源分布の様子が全く異なっています(文献5)。地震の震源分布は深い領域の話で、浅い領域の話の地帯構造の話とは直接は結びつかないのですが、両者は無関係とはとてもいえません。また、火山の分布方向も中国地方の「大山火山帯」と九州の「霧島火山帯」では明らかに異なります。そこで、1つは、外帯の帯状構造の向きが明瞭に違うこと、もう1つは、地震の震源分布の状況が大きくことなること、もう1つは、火山帯の分布の向きが大きくことなることの3つの理由で、本州主弧と九州・琉球弧とは別の島弧系と判断しました。

 すると、この両方の弧の間の境はどこかということになります。それらしきものの最有力候補は「菊川断層帯」(文献6)と、その延長です。菊川断層帯の南東延長は、地形などから、厚狭付近から小野田付近、宇部市付近と考えて良いでしょう。周防灘の海底については無知なので何もいえませんが、火山の分布から大分県の姫島と両子山は、山口県の阿武から徳山にかけてほぼ南北にのびる火山帯(阿武・姫島火山帯)に含まれそうなので、ここまでは、中国・四国側とすると、ちょうど両子山直下ぐらいに、北西−南東に延びる断層を想定すると、すべて、うまくつながりそうです。確証があるわけではありませんが、両子山を中心をする国東半島の地形をみると、ここに北西−南東の左横ずれ断層があってもおかしくないように思います。

本州主弧と九州・琉球弧の境界のこの線を「宇部・国東半島線」と呼ぶことにしました。

 この境界線を北西に向かって延長していくと、朝鮮半島の東部で、半島の高まりが日本海盆から立ち上がろうとしている、海盆の西縁線にぶつかります。また、南東に延長していくと、多少の凸凹はありますが、日向海盆の西端から、九州・パラオ・大東海嶺の北東縁線(=四国海盆の南西縁線)にぶつかります。




1−1−5 北海道の地帯構造の検討

 北海道の海底地形と陸上の地質図との両方を同時に確認できる文献3の北海道の地質図でみると、網走沖の海底谷、陸上の道東の諸火山の噴出物の分布の西端、釧路沖の海底谷を結ぶ一大構造線を想定して良いように思います。遠目に海底地形をみると、この線は円弧状なので、この円弧の内側が野付半島付近を中心に少し反時計回りしているようにも見えます。もし、そうなら、この線は右横ずれ断層ということになります。

 一般には、千島弧と本州弧の境界は北海道の中央を南北に走る帯状構造の東縁線付近であると考えられていて、文献3にもそのような説明がされています。しかし、これは本当でしょうか。北海道の地帯構造については既存説にとらわれずに、じっくりと再考してみる必要があるのではないでしょうか。

 北海道西南端の渡島半島の地形・地質と東北北端部の青森県地方の地形・地質とはかなり、きれいにつながっていて、この間に大きな地帯構造の相違があるとは思われません。もっとも、小さな構造線はあって、その構造線谷に沿って進入している海(津軽海峡)で、本州とは分断されてはいますが。

 北海道西部の積丹半島の南西側海岸線は、ほぼ北西−南東の直線的な形状をしています。そして、この線を南東側に延長していくと、羊蹄山さらに、倶多楽湖にぶつかります。これらは、ほぼ一直線上にあります。これをさらに南東に延長していくと、日高舟状海盆の北東縁で、このあたりの地塊が最高点である日高山脈に向かって、海底の平坦地から立ち上がる海底の地形変換線にぶつかります。積丹半島南西側海岸線(正確には、これに対応する海底の地形変換線)−羊蹄山−倶多楽湖−日高舟状海盆北東縁線を一大構造線と考えて良いのではないでしょうか。また、この北東側にこれにほぼ並行的な、小樽−札幌手稲山北東側山麓−恵庭−千歳を結ぶ線もこの副断層的なものと考えて良いように思います。この間が全体として一種の帯状の断層帯になっているという仮想をしてみたのですが、どうでしょうか。以後の便利のためにこの断層帯を陸上の積丹半島と支笏湖の地名を使用して、「積丹半島・支笏湖断層帯」と呼ぶことにします。

 この仮想の帯状の断層帯と、先に述べた網走−釧路間の構造線(「網走・釧路線」)で、北海道の地形・地質が規制されていると考えると、一般に考えられていることとは、かなり違った考察ができます。つまり、網走釧路線が本州弧と千島弧の境界で、それ以西の北海道は、積丹半島・支笏湖断層帯で2分され、南西端はそのまま東北の北方延長と考えます。すると、積丹半島・支笏湖断層帯と網走・釧路線の間の道央はどう考えるのかという話になります。本州弧の回転の復元という観点に立てば、北海道の西部から東部に向かう地層の分布の追跡は、中国・四国地方の北部から南部に向かっての地層の分布の追跡と全く並行することになるので、山陰から山陽、瀬戸内海、四国北部、四国南部に向かって地層の分布を追跡して、北海道と似ているものを探すと良いということになります。道央には、中国山地のような中・古生代の深成岩体の巨大な集まりはありません。しかし、道央の南北に延びる各地層の帯状構造は四国の帯状構造に良く似ているように思います。特に、三波川帯の変成岩と神威古潭帯の変成岩は、全く同じものではないとしても、大きくは、同じ時代に同じように形成された一連のものと考えてもよいのではないでしょうか。




1−1−6 北海道道央・道東と四国の地帯構造の比較

 以上のような考え方で、文献7、文献8を参考にして、次の比較表を作ってみました。北海道と四国の地形・地質はかなり素直につながると考えて良いのではないでしょうか。

表1−1 北海道道央・道東と四国の地帯構造比較表
四国 北海道

 
|
|
|
|

|
|
|
|
 
和泉帯     西
 
|
|
|
|

|
|
|
|
 
空知層群・蝦夷層群 空知−
蝦夷帯
中央構造線
三波川帯
神威古潭帯

   
御荷鉾帯
北帯 秩父累帯 (北海道では
ほとんど欠損)
中帯
南帯
仏像構造線
四万十帯 日高帯
    
常呂帯
根室帯の一部
(網走・釧路線以西)



 なお、この表には礼文−樺戸帯が入っていません。礼文−樺戸帯の分布は狭く、火山岩を主体とするようです。この帯は、位置的には領家帯に対応しますが、領家帯の主に花崗岩から成る岩相とは合致しません。両者を対応するものとは認めがたいので、宙ぶらりんの礼文−樺戸帯は無視しました。



1−2 素材性状的にみた地殻

1−2−1 島弧・海溝系などの地形の特長

 島弧・海溝系の図1−3で特徴的なことは、島弧と海溝がきれいに並んでいるところが、あちこちに見られることです。島弧も海溝も平面的には細長いので、かなり突拍子のない比喩ですが、これららを道路に見立てて、これらの道路地図を描いてみる試みを行って図1−4を完成させました。



図1−4 島弧・海溝系を道路網にみたてた道路地図


 図1−4で道路としたのは、島弧・海溝の他、海嶺や陸上の山脈、山脈に準じる地形(=朝鮮半島)です。これらは、周囲より相対的に高くなっていて、かつ、高まりが、その軸方向に細長く伸びています。道路としなかったところは、海盆と大陸の平原、大陸棚です。これらのところは、周囲より相対的に低くなっています。また、概ね平坦であるという特長があります。

 ここには、本論と直接は関係しない余談を書きます。
 道路が交差するところが交差点で、交差点には十字路で交差するところと、丁字路で交差するところがありますが、図1−4の見方では、北海道は単純な丁字路で、関東・中部は、主な通り(本州主弧)が交差点で折れ曲がっている、少し複雑な丁字路ということになり、九州は十字路になります。したがって、これらの地域の地質構造はおのずと複雑になりますから、日本列島の地質を理解するためには、単純な東北や中国・四国で基本形を押さえておいて(特にその横断断面を押さえて)、その目で、より複雑な、北海道、関東・中部、九州を見るという2段階を踏むのが良さそうだといえます。




1−2−2 地形から推測される地殻の素材性状

 ものの見方には様々な方向からのものがありますが、その中の1つに、材料力学的にみる見方があります。材料を、何か力を加えたときの変形、あるいは破壊の仕方によって検討する立場です。

 大雑把ですが、材料を、力を加えて破壊するものと、破壊しないものに分けてみます。当然、加える力の大きさによって、同じものが破壊したり、破壊しなかったりしますが、そのことは、少しおいて、仮定のある一定レベルの力に対する挙動による材料の分類を考えてみます。すると、大きくは破壊と非破壊に区分され、非破壊では、大きく変形する場合、少しだけ変形する場合、変形しない場合があります。また、加えた力をゼロに戻したとき、変形したものが、全部もとの形に戻る場合、一部だけもとに戻る場合、変形が全くもとに戻らない場合があります。このような、材料の挙動によって、物体を次のように分類できるでしょう。(ある力のもとでという条件つきですが)

物体の力に対する挙動による分類

 表1−2 物体の力に対する挙動による分類

破壊/非破壊 力を加えたときの変形など 力をゼロに戻したときの状態 材料力学的な物体の分類
非破壊 変形しない もとのまま(変形なし) 剛体
少し変形する 変形したまま (やや固い)塑性体
変形が一部もどる (やや固い)(弾塑性体)
変形は全部もとに戻る (やや固い)弾性体
大きく変形する 変形したまま (やわらかい)塑性体
変形が一部もどる (やわらかい)(弾塑性体)
変形は全部もとに戻る (やわらかい)弾性体
破壊 変形し、破壊する 変形ももどらず、破壊したまま (脆性)破壊物質


 要するに破壊するのが、脆性破壊物質で、破壊せず、変形して変形がもとに戻るものが弾性体、破壊せず、変形して変形が全く戻らないものが塑性体、破壊せず、全く変形もしないものが剛体という考えで良いでしょう。

 こういう性質は、同じ物体でも、温度、圧力、力の大きさ、力の加わる速度などに影響されて変化しますから、厳密な議論のときには、これらの条件を明らかにしておく必要がありますが、大雑把な議論のときは、そのあたりにあまり神経質になることはないでしょう。

 さて、島弧・海溝系などの大地形を、その地形を作っている地殻物質の材料力学的性質という観点で考えると、相手が大きすぎて扱いにくいのですが、若干の推定を行えば、大地形と地殻の素材性状の関連づけが可能でしょう。 断層は、脆性破壊に対応する構造です。褶曲は塑性変形に対応する構造です。また、変形がほとんどないことは、剛体としての性質をうかがわせます。

 少し大胆かもしれませんが、島弧や海溝は、褶曲的であるので、塑性体地殻を示し、海盆は平坦、つまり、変形がほとんどないと解釈可能なので、この地形は剛体地殻を示すと推定し、海嶺や陸上の山脈(・準山脈=朝鮮半島)も島弧・海溝に準じる塑性体地殻と推定すると、日本列島付近は、単純に、塑性体地殻と剛体地殻の2種類の素材の地殻から構成されているというモデルを作ることができます(図1−5)。




図1−5 大地形の地殻素材性状での解釈図



 さらに大胆に、この分類を日本列島付近だけでなく、世界中、つまり、固体地球表面全体に広げて適応してしまえば、固体地球表面は、剛体地殻と塑性体地殻に2分されるということになります。   





参考文献リスト

1 上田 誠也(うえだ せいや) 著  1971 新しい地球観
             岩波新書779      岩波書店   pp. 125-127

2 能田 成(のうだ すすむ) 著   2008 日本海はどう出来たか
           [叢書・地球発見12]   ナカニシヤ出版   pp.131-141

3 日本列島の地質編集委員会 編 2002
理科年表読本 コンピュータグラフィクス 日本列島の地質CD−ROM版
                           丸善   第2章 日本列島の地質

4 活断層研究会 編 1992   [新編] 日本の活断層 分布図と資料
                           東京大学出版会   分布図

5 岡田 義光(おかだ よしみつ) 著 2004 日本の地震地図
                        東京書籍   pp.148-150, pp.172-176

6 人文社編集部 編  中田 高・今泉 俊文 監修 2005 日本の活断層地図
           中部・近畿・中国・四国・九州 活断層地図  人文社

7 日本の地質「北海道地方」編集委員会(代表 加藤 誠) 編 1990
   日本の地質1 北海道地方     共立出版   pp.5-6, pp.24-26

8 日本の地質「四国地方」編集委員会(代表 須鎗 和巳) 編 1990
   日本の地質8 四国地方      共立出版   p.5, pp.35-36